回転ずしチェーンの「かっぱ寿司」を運営するカッパ・クリエイトの社長が、以前勤めていた、ライバルチェーンの営業秘密に当たるデータを、不正に持ち出したなどとして、不正競争防止法違反の疑いで警視庁に逮捕されました。業界内では競争が激化していて、警視庁は詳しい動機やいきさつの解明を進めることにしています。
逮捕されたのは「かっぱ寿司」を運営するカッパ・クリエイトの社長、田邊公己容疑者(46)です。
警視庁によりますと、田邊社長は、ライバルチェーンの「はま寿司」の親会社から「カッパ・クリエイト」に転職した前後の、おととし9月から12月にかけて「はま寿司」の仕入れに関するデータをコピーして不正に持ち出し、自社のデータと比較して使用したなどとして、不正競争防止法違反の疑いが持たれています。
警視庁は去年「はま寿司」からの刑事告訴を受けて、捜査を進めていましたが、商品に使われる食材の原価や使用量などに関するデータが、営業秘密に該当すると判断したということです。
ほかにもカッパ・クリエイトの商品企画部長、大友英昭容疑者(42)が、データを不正に使用したとして、また、田邊社長が「はま寿司」に在籍していた時の元部下湯淺宜孝容疑者(43)が、データのパスワードを漏らしたとして合わせて逮捕されました。
警視庁は社長らの認否を明らかにしていません。
社長は、おととし11月に、役員を務めていた「はま寿司」の親会社からカッパ・クリエイトの顧問に転職し、副社長を経て去年、社長に就任していました。
回転ずしは、消費者の節約志向を背景に、大手5社を中心に競争が激化しています。
警視庁は社長らを取り調べ、詳しい動機やいきさつの解明を進めることにしています。
カッパ・クリエイトは、大手回転ずしチェーンの「かっぱ寿司」を運営する東証プライム上場の企業です。
全国に300店舗余りを展開する一方、ほかの回転ずしチェーンとの競争の激化と食材の価格や物流費の高騰などの影響で、おととし3月までの1年間の決算は、最終的な損益が赤字となるなど、経営の立て直しを迫られていました。
こうした中、田邊社長はおととし11月にライバルチェーンの「はま寿司」の親会社からカッパ・クリエイトに転職し、顧問や副社長を務めたあと、去年2月に社長に就任しました。
田邊社長の就任までのおよそ7年の間に、会社では5度にわたって社長が交代する事態となっていました。
そして、社長就任から5か月後の去年7月、カッパ・クリエイトは田邊社長が刑事告訴されたことを公表しました。
カッパ・クリエイトは「はま寿司の社内で共有されていた売上データなどを、社長が個人的に送付を受けていた」と刑事告訴された内容について説明したうえで、「捜査に全面的に協力し、結果を待って処分などについても厳正に対処する」としていました。
民間の調査会社によりますと、国内の回転ずしの市場規模は急速に拡大していて、昨年度は7400億円余りと、10年前の1.6倍に上っています。
その一方で、食材の価格や物流費の高騰、それに、新型コロナウイルスの影響なども重なり、業界内の競争は激しさを増しています。
国内の回転ずし事業の売り上げは、
▽最大手の「スシロー」を運営する「あきんどスシロー」が2132億円
▽2位の「くら寿司」が1315億円
▽3位の「ゼンショーホールディングス」の傘下にある「はま寿司」が1300億円
▽4位が「かっぱ寿司」を運営する「カッパ・クリエイト」で、529億円となっています。
企業の営業秘密の不正な持ち出しをめぐっては、2015年に不正競争防止法が改正され罰則が強化されましたが、その後も検挙されるケースが相次いでいます。
▽神戸市の化学品メーカーの元社員が、在任中のおととし、自動車部品などの生産に使われる潤滑油に関する営業秘密を、テレワーク中に会社から不正に持ち出したとして不正競争防止法違反の疑いで9月に逮捕されました。
逮捕当時、調べに対し「利益を得る目的ではなく、独立後、参考にしようとしていた」と容疑を一部否認していたということです。
▽去年1月には、携帯電話大手のソフトバンクの元社員が、競合他社に転職する前に、新しい通信規格5Gなどに関する営業秘密を不正に持ち出したとして、逮捕・起訴されました。
元社員は無罪を主張し、裁判が続いています。
▽2019年には、大手スポーツ用品メーカー「アシックス」の元社員が、競合他社への転職が決まっていた当時、製品のデータなどを不正に持ち出したとして略式起訴されるなど、
営業秘密の漏えいをめぐっては、競合関係にある他社への転職に絡んだ事件が相次いでいます。
回転ずし業界は、1皿100円などの低価格や、その手軽さから人気を集めてきました。
さらにラーメンや、わらび餅、ケーキなど、すし以外のメニューを提供することで、家族連れから高齢者まで、さまざまな客層を取り込んでいきました。
集客のために、郊外のロードサイドを中心に次々と大型店が出店されていったのも大きな特徴です。
その一方で、回転ずしの店舗は、回転レーンなどに多額の設備投資が必要なことから、資金力のある大手チェーンの寡占化が進み、競争も激しくなっていきます。
こうした中、「かっぱ寿司」を展開する「カッパ・クリエイト」は、回転ずしチェーンの中で、かつて売り上げが業界トップでしたが、現在は4位と低迷しています。
同業他社が出店数を増やすなどして競争が激しくなるなか、値下げに踏み切るなど、一時、低価格路線を進めましたが、その結果、品質の低下などを指摘する声もあがっていました。
さらに昨年度は、新型コロナの感染拡大で外出を控える動きが続き、人気を集めた外国人旅行客の来店数も大きく減った影響で、業績の悪化が続いていました。
かっぱ寿司を運営するカッパ・クリエイトは「関係者の皆様に多大なるご迷惑とご心配をおかけし、深くおわび申し上げます。現在、事実確認を行っているところです」などとするコメントを出しました。
企業の雇用政策や情報管理に詳しい神戸学院大学の中野雅至教授は「人手不足を背景に転職市場が拡大しているが、とりわけ同じ業種内で転職する際には、以前の企業で得た情報や知識といったノウハウ全般が実績として評価されることになる。そのため、何が企業の機密情報にあたるのかも含め、情報の流出が問題になるケースが相次いでいる」と指摘しています。
そのうえで、「今後も人材の流動化は避けられず、さらに、IT技術の発達によって誰でも瞬時にデータを収集できる時代なので、まずは、その企業にとって、どのような情報が営業秘密にあたるのかを明確にしたうえで対策を取ることが必要だ」と話しています。
「かっぱ寿司」を運営するカッパ・クリエイトは、社長が不正競争防止法違反の疑いで警視庁に逮捕されたことについて、「このたびの事態により、関係者の皆様に多大なるご迷惑とご心配をおかけしておりますことを深くおわび申し上げます。事案の解明に向けて関係当局による捜査に全面的に協力してまいります。当社として引き続き、役職員に対するコンプライアンス教育を徹底・強化していくことなどにより再発防止に努めてまいる所存です」とコメントしています。
「かっぱ寿司」を運営するカッパ・クリエイトの社長が、以前勤めていたライバルチェーン、「はま寿司」の営業秘密に当たるデータを不正に持ち出したなどとして逮捕されたことについて、はま寿司を傘下に持つ「ゼンショーホールディングス」は、コメントを出しました。
この中では、「公正な商取引を守るためにも全容が解明され、不正行為者に対して厳重な罰則が適用されるべきと考え、今後も警視庁・検察庁の捜査に全面的に協力してまいります」としています。
そのうえで、会社は情報管理の部署を新たに設置し、社内文書の管理規程や取り扱いのガイドラインを厳格に改定したということで、「情報管理体制の一層の強化や従業員へのコンプライアンス教育の徹底を図り、再発防止に努めていく」としています。