1か月以上にわたって緩やかな減少が続いていた全国の新型コロナウイルスの新規感染者数は今週、増加に転じました。なぜ増加しているのか、そして、感染の「第7波」が始まっているのか、現状を整理するとともに専門家に取材しました。
感染拡大の「第6波」では2022年1月に感染者数が急激に増え、2月上旬に1週間平均の感染者数が9万3000人余りとなった後、緩やかな減少が続いていました。
しかし、NHKのまとめで、3月30日までの1週間の新規感染者数は全国で前の週と比べて1.15倍と、およそ1か月半続いた減少から増加傾向に転じました。
前の週より増加した地域は42の都道府県に上りました。
【首都圏】
▽東京都で1.21倍
▽神奈川県で0.95倍
▽埼玉県で1.17倍
▽千葉県で1.07倍
【関西】
▽大阪府で1.11倍
▽京都府で1.23倍
▽兵庫県で1.11倍
などとなっています。
中には
▽秋田県で1.35倍
▽三重県で1.47倍
▽佐賀県で1.49倍
▽大分県で1.45倍
▽鹿児島県で1.74倍
▽沖縄県で1.36倍
などと九州を中心に増加の幅が比較的大きくなっているところもあります。
鹿児島県では3月30日、一日の感染者数が776人と、2日連続で過去最多を更新しました。
どうして今、感染者数が増えてきているのか。
3月30日に開かれた厚生労働省の専門家会合で要因として指摘されたのが、
▽3月19日からの3連休や、年度替わりによる卒業イベントや歓送迎会などで人との接触機会が増えたこと
▽まん延防止等重点措置が3月21日を期限に解除されて以降、全国的に夜間の繁華街の人出が増えていることです。
そして、こうしたことに伴って20代の感染者数が増加し、特に飲食店での感染の割合が増加傾向にあるとしています。
活動が活発な20代での感染増加は、これまでも感染拡大が起きる初期に見られ、そこから幅広い世代に感染が広がる傾向があるため、注意する必要があるとしています。
また、その一方で、介護福祉施設や医療機関での高齢者の感染もまだ続いているとしています。
専門家会合は検査数が減った3連休の影響で、3月下旬では前の週と比べて、数値上増えているように見えることに注意が必要とはしつつ、今の増加傾向が感染の再拡大、リバウンドに、つながらないか、注視する必要があるとしています。
一日の新規感染者数は、第6波のピークから半減したとは言え、2021年夏の第5波のピークの2倍近くに上っています。
いまはまだ第6波のさなかだという指摘もあり、このまま「第7波」になると、これまでよりも大きな感染拡大になるおそれがあると専門家は指摘しています。
専門家会合の脇田隆字 座長は3月30日の記者会見で「20代で感染者が少し増え始め、飲食店での感染の割合が増えている。また、東京や大阪で検査の陽性率が上がっていることなど、リバウンドの兆候が見え始めている可能性がある。ただ、今は、感染の拡大期に入ったとまでは言える状況ではない」と述べました。
また、専門家会合のメンバーで国際医療福祉大学の和田耕治教授は「いまだに過去にない規模の感染が起きているなかで今後も拡大が続けば、第6波より高い波が来ることも想定しないといけない」と指摘しています。
今後の感染状況について専門家会合は、感染を増加させる要因と抑制する要因があり、そのバランスでどちらが優勢になるかが影響するとしています。
増加させる要因として専門家会合は
▽夜間の繁華街の人出の増加と
▽オミクロン株のうち、さらに感染力が高いとされる「BA.2」への置き換わり
を挙げていて
感染を抑制する要因として
▽3回目のワクチン接種率が向上し、さらにこれまでに感染して抗体を持つ人が多くなっていることや
▽気温が上昇し、換気しやすくなること
を挙げています。
新型コロナウイルスはマスクなしでの会話などを通じて感染が広がることから、夜間の繁華街の人出が増加したあと感染が拡大するパターンが繰り返されてきました。
重点措置の解除後、夜間の繁華街の人出はおおむね全国的に増加しています。
この中で、活動が活発な若い世代の感染が増えてきていて、感染者情報を集約する厚生労働省のシステム「HER-SYS」のデータによりますと、新規感染者数に占める20代の割合は全国では2月以降は13%ほどだったのが3月中旬以降は徐々に上昇し、16%から17%ほどとなっています。
また、現在、人口当たりの感染者数が最も多い沖縄県のデータでは、20代の感染者数は今月27日までの1週間で前の週と比べて4割増加し、全体に占める割合ではおよそ22%に上っています。
オミクロン株のうち、さらに感染力が高いとされる「BA.2」に置き換わると、感染の増加につながるおそれがあると指摘されています。
国立感染症研究所によりますと、民間の検査機関で行われたコロナウイルスの検査結果では「BA.2」は3月7日からの1週間で20%前後を占めていて、
▽今週3月28日からの週にはおよそ60%
▽4月25日からの週では90%余り
に達すると推定されています。
イギリスなどでは、BA2への置き換わりで感染が増加に転じ、重症者や亡くなる人の数も増加しているとしています。
3回目のワクチン接種率は、2022年1月初旬の段階では、65歳以上の高齢者でも接種率は1%にも満たない状況でしたが、3月31日の時点で65歳以上の高齢者では80%を超えていて、人口全体でも40%を超え、今後、若い世代でもさらに接種が進むことが期待されています。
長崎大学などが行った研究では、新型コロナウイルスに対するワクチンの3回目接種で発症を予防する効果はオミクロン株が広がった時期でも68.7%と推計され、専門家会合は3回目接種によって有効性が回復するとしています。
さらに、第6波で感染が大きく拡大した地域では新型コロナウイルスに対する抗体を持つ人が一定程度いて、今後の感染拡大が抑えられることにつながる可能性があると指摘しています。
新型コロナウイルスは、主に飛まつや「マイクロ飛まつ」や「エアロゾル」と呼ばれる密閉された室内を漂う、ごく小さな飛まつを通じて感染するため、換気が重要な対策となってきました。
専門家会合は今後、気温の上昇で飲食店などで換気しやすくなることや、屋内で過ごす時間が減ることも感染拡大を抑制する要因として考えられるとしています。
専門家会合は、こうした感染の増加要因と抑制要因の変化が感染状況に影響するとしていて、感染を抑えるためには、ワクチンの追加接種を着実に実施することや不織布マスクの正しい着用、消毒や換気、密を避けるといった対策の徹底が必要だとしています。
国際医療福祉大学の和田教授は「若い世代でのワクチン追加接種をさらに進めるなど、感染の抑制に結び付く要素が追いつけば急激な増加が抑えられる可能性もある。追加接種を受ける機会を逃さず、なるべく早く受けてほしい。のどの痛み、発熱など体調が少しでもおかしいときには感染していると考えて人と会わないようにしてほしい」と話しています。
そして、今後の備えについては「どこかのタイミングで第7波がくることを前提とした準備が必要だ。特に一般の医療機関では、けがや病気で治療が必要な患者がコロナに感染していても対応できる環境を整えることが非常に重要だ。自分のところで対応ができず転院もままならなければ救急搬送が困難な事例も増えてきて、それが一般医療のひっ迫に直結する。第6波の教訓を踏まえ、地域ごとに医療体制の再点検と整備を急ぐ必要がある」と指摘しています。
また、専門家会合の脇田座長は「感染対策にはさまざまな意見があると思うが、これまで日本では重症者数や死亡者数を減らすため医療にひっ迫の兆候があれば対策をとってきた。ただ、行動制限を行うと経済へのダメージも大きい。重点措置などが出されていない現状では、経済活動は抑制せずに感染リスクを避ける行動や3回目のワクチン接種などの対策をしっかりやっていくということになる。個人的な意見だが、今後、感染が拡大して医療のひっ迫が確実に起こるというような場合は感染を抑える対策が必要だと考えている。その場合は、さまざまな関係者がしっかりと合意をして進めていくべきだ」と話しています。