北朝鮮は19日午前、弾道ミサイル2発を発射しました。このうち1発はSLBM=潜水艦発射弾道ミサイルの可能性があり、変則的な軌道でおよそ600キロ飛んで、日本の排他的経済水域の外側の日本海に落下したと推定されています。防衛省は、もう1発の飛距離や落下地点などについて、情報収集と分析を進めています。

防衛省によりますと、19日午前10時15分と午前10時16分ごろ、北朝鮮が東部のシンポ付近から東方向に2発の弾道ミサイルを発射したということです。

北朝鮮が弾道ミサイルやその可能性があるものを発射したのが確認されるのはことしに入って4回目で、9月15日以降の1か月余りで3回の発射が行われたことになります。

防衛省によりますと、このうち1発は最高高度が50キロ程度に達し、変則的な軌道でおよそ600キロ飛んで、日本の排他的経済水域の外側の日本海に落下したと推定されています。

また、このミサイルは、SLBM=潜水艦発射弾道ミサイルの可能性があるということです。

今回、発射されたミサイルがSLBMであればおととし10月2日以来で、防衛省のまとめでは、5回目のSLBMの発射となります。

防衛省はもう1発の弾道ミサイルの飛距離や落下地点などについて、引き続き情報収集と分析を進めています。

一方、これまでのところ、2発の弾道ミサイルによる航空機や船舶の被害の情報はないということです。

岸防衛相「1発はEEZ外に落下、もう1発は分析中」

岸防衛大臣は、総理大臣官邸で開かれたNSC=国家安全保障会議の閣僚会合に出席したあと、防衛省で記者団に対し「北朝鮮は、午前10時15分ごろ、朝鮮半島東部のシンポ付近から2発の弾道ミサイルを東方向に発射した模様だ」と述べました。

そして、このうち1発はSLBM=潜水艦発射弾道ミサイルの可能性があるとした上で、最高高度50キロメートル程度を変則軌道で600キロ程度飛しょうし、日本のEEZ=排他的経済水域の外側の日本海に落下したと推定されると明らかにしました。

また、もう1発については「飛しょう距離などを引き続き分析中だ」と述べました。

さらに岸大臣は「発射されたミサイルがSLBMだとしたら、変則軌道は初めての可能性が高いのではないか」と指摘しました。

そして「アメリカ、韓国をはじめ関係国と緊密に連携しながら、国民の生命、平和な暮らしを断固守り抜く決意だ。いわゆる『敵基地攻撃能力』の保有も含め、あらゆる選択肢を検討し、今後とも防衛力の抜本的な強化に取り組んでいく」と述べました。

日米韓国情報機関トップが会談

韓国の情報機関、国家情報院は、19日午前、ソウルでパク・チウォン(朴智元)国家情報院長と、日本の瀧澤内閣情報官、それにアメリカのヘインズ国家情報長官が会談したと発表しました。

それによりますと、会談では、朝鮮半島の情勢や懸案など共通の関心事について意見を交わし、今後も3か国の連携を強化していくことで一致したということです。

また、北朝鮮による19日のミサイル発射についても情報を共有したとしています。

韓国軍 海上から発射されたSLBMと推定

韓国軍の合同参謀本部は、北朝鮮が19日午前、日本海に向けて発射したミサイルについて、東部のハムギョン(咸鏡)南道シンポ(新浦)の沖合から発射されたSLBM=潜水艦発射弾道ミサイルと推定されると発表しました。

北朝鮮が今回発射したのがSLBMだとすれば、おととし10月に東部のウォンサン(元山)沖から「北極星3型」を発射して以来となります。

韓国政府の関係者は、飛行距離はおよそ590キロ、高度はおよそ60キロだったとしたうえで、初めて潜水艦から新型のSLBMを発射した可能性があるとしています。

また、韓国軍がミサイルは1発だったと説明していることについては、ミサイルが切り離されて2つになったことも考えられると指摘しています。

韓国の通信社、連合ニュースは、10月11日にピョンヤンで開幕した兵器の展示会で公開された、小型のSLBMとみられるミサイルの可能性もあると伝えました。

一方、韓国政府は、NSC=国家安全保障会議を開いて、対応を話し合い、関係国が協議を行っている中、北朝鮮がミサイルを発射したことに深い遺憾の意を表明しました。

そのうえで、アメリカなどとの緊密な協議を通じて必要な措置を講じるとともに、北朝鮮に対し、朝鮮半島情勢の安定が重要だとして対話に応じるよう求めるとしています。

米軍「このような行為非難し、控えるよう求める」

アメリカのインド太平洋軍は19日、声明を発表し「われわれは北朝鮮が弾道ミサイルを発射したことを把握しており、日本や韓国などと緊密に協議している。アメリカはこのような行為を非難し、北朝鮮に対して状況を不安定化させるさらなる行為を控えるよう求める」としています。

そして「今回の発射はアメリカの人々や領土、あるいは同盟国への差し迫った脅威ではないと判断しているが、状況を監視し続ける。日本と韓国の防衛に対するアメリカの関与は揺るがない」として日韓両国と連携する姿勢を強調しました。

中国外務省「関係国は自制を保ち、政治的な解決プロセスを」

中国外務省の汪文斌報道官は記者会見で「現在の朝鮮半島情勢は重要な時期にある。関係国は、大局に焦点を当て、自制を保ち、朝鮮半島の平和と安定の維持に力を注ぎ、ともに政治的な解決のプロセスを推し進めるべきだ」と述べました。

発射実験を繰り返し技術向上進める北朝鮮

北朝鮮は、これまでにSLBM=潜水艦発射弾道ミサイルの発射実験を繰り返して技術向上を進めています。

この背景について、防衛省がまとめた防衛白書では、発射する兆候の把握を難しくさせるための技術を取得し、奇襲的な攻撃能力の向上を図っていると指摘されています。

北朝鮮がSLBMの発射実験を初めて公開したのは2015年で、水中からの発射実験に成功したと発表しました。

そのよくとしには4月、7月、8月と相次いでSLBMを発射し、このうち8月はミサイルがおよそ500キロ飛行しました。

そして、おととしには、東部ウォンサン(元山)沖の海域で「北極星3型」の発射実験に成功したと発表しました。

発射は通常より角度をつけて高く打ち上げる「ロフテッド軌道」で行われたと推定され、防衛省は通常の角度で発射された場合、射程がおよそ2000キロになる可能性があると分析しています。

この発射について国営メディアは「われわれに対する外部勢力の脅威を抑制し、国の自衛的軍事力をさらに強化するのに新たな局面を開拓した」と強調しました。

その後去年10月には「北極星4」、ことし1月には「北極星5」と記された新型とみられるSLBMが軍事パレードで相次いで登場しました。

10月、首都ピョンヤンで開かれている兵器の展示会では、異なる大きさのSLBMとみられる兵器も公開されていて、SLBMの開発を継続していることを誇示していました。

専門家「技術力の向上と同時に政治的メッセージ」

北朝鮮情勢に詳しい南山大学の平岩俊司教授は北朝鮮問題を担当する日米韓の高官が協議を行う予定であることを踏まえ「今回の実験の主たる目標はことし1月に示された国防力強化における技術力の向上だと思われるが、同時に政治的なメッセージを出していることも間違いない。北朝鮮からすれば日米韓の動きがあるなかミサイル発射実験を行うことで、『敵視政策を撤回しない状況では対話に応じるつもりはない』という姿勢を示し、自分たちの軍事技術力を高めてより体系的で精緻な安全保障体制を作ろうとしていると考えられる」と指摘しました。

北朝鮮が先月からミサイル発射実験を繰り返していることについては「さまざまなミサイル発射を行うことによって、北朝鮮の安全保障体制が非常に多様化され、緻密で体系化されていることを国際社会に示す意味があるのではないか」と分析しました。

発射されたミサイルがSLBM=潜水艦発射弾道ミサイルだと推定されることについては、平岩教授は韓国も先月SLBMの発射実験を行ったことをあげ「北朝鮮がいきなりSLBMの実験をすれば国際社会から非難が集まることも意識していただろうが、韓国が先に発射実験を行ったことで仮に非難を受けても『韓国がすでに行ったことをわれわれはなぜやってはいけないのか』と反論することができる。そうして国際社会からの非難をかわしみずからの安全保障能力をより大きく示そうとしているのではないか」という見方を示しました。