中国企業が運営する動画共有アプリ「TikTok」をめぐって、アメリカのトランプ大統領は、安全保障を脅かすおそれがあるとして、運営会社にアメリカでの事業を売却するよう命じました。IT大手のマイクロソフトが事業の買収交渉を進めていますが、交渉の行方は不透明で、1億人に上るとされるアメリカの利用者の間で懸念が膨らんでいます。

ロサンゼルス郊外に暮らすエミリー・ウルフさん(32)は、1年ほど前から、飼っている犬などの動画をTikTokに投稿しています。

15秒の短い動画で身近な存在を伝える動画が人気を呼び、フォロワーは7万人に上っています。

しかし今、トランプ政権の対応に懸念を募らせています。

ウルフさんは「TikTokなら、飾らないありのままの自分を表現できるのが魅力です。もしアプリが使えなくなったら立ち直れそうにありません」と話していました。

TikTokが利用できなくなったとしてもフォロワーとのつながりを保ちたいと考え、別のアプリ、インスタグラムで自分の投稿を見てもらうよう呼びかけていますが、今のところ思ったような反応はないといいます。

ウルフさんは「インスタグラムに移ってくれたのは200人ほどです。慣れ親しんだアプリから別のアプリに乗り換えてくれる人は少ないんです」と話していました。

TikTokは、アメリカでは個人の楽しみにとどまらない広がりを見せていて、そうした人たちにも波紋を広げています。

ロサンゼルス郊外では、16歳から22歳までのクリエーターたち10人ほどが所属事務所が用意した住宅に寝泊まりして日々、動画を制作しています。

撮影から編集、投稿まで使う機材はスマートフォンのみ。

音楽に合わせてダンスを披露する動画などが若者たちに人気を呼び、企業からの広告などで、クリエーターの収入が日本円で月に100万円を超えることもあるということです。

クリエーターの1人、ブライス・エックスザビアーさん(18)は「動画を作るのに相当な手間をかけています。どんなことがあってもTikTokを失いたくないと思っています」と話していました。

競合他社の動きも活発化

トランプ政権の対応を受けて、同様のサービスを提供する企業の間では利用者の乗り換えをにらんだ動きが活発化しています。

アメリカの動画投稿アプリ「Triller」は、今月2日までの1週間でダウンロード数がそれまでの20倍に増えたほか、TikTok上で人気のあった複数のクリエーターが活動の場を移すと表明しています。

また、フェイスブックも傘下のインスタグラムに、15秒間の動画を投稿できる機能「Reels」を追加しました。

「Triller」に出資するシリコンバレーの投資会社、ペガサス・テック・ベンチャーズのアニス・ウッザマンCEOは、NHKの取材に対し「今は短編動画のアプリがトレンドになっていて、私たちもどんどん新しいものに投資しているのでいろいろなサービスが出てくると思う。今回の騒動が競合他社のアプリにとって追い風になっているのは間違いない」と話しました。

そのうえで「この騒動を機にアメリカ政府の立ち位置が明確になったので、投資の盛んなシリコンバレーでは、中国企業への投資に対する目線がより厳しく慎重になっている」として、米中の対立が企業の投資判断にも影響を及ぼしていると指摘しています。