信頼できる?政府の経済見通し | 親父と息子の口喧嘩

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信頼できる?政府の経済見通し

新しい年になってもう1か月がすぎましたが、年の初めには初詣でおみくじをひいて、ことしはどんな年になるのかなと思いをめぐらせた人も多いかもしれません。金運には、経済がこの1年どう動くかということも関係しそうですが、ことしの経済がどうなるのか、政府が経済成長率という具体的な数値で見通しを示しているのをご存じでしょうか?そしてこの見通し、甘いのではないかと疑問視されることもありますが、実際は、どのくらい的中しているのでしょうか?調べてみました。(経済部記者 影圭太)

自信満々の1.4%

西村経済再生担当大臣
「実現できる数字だと自信を持っているところです」

去年12月中旬、西村経済再生担当大臣がこう述べて発表した、新年度・2020年度の経済見通し。そこで示された経済成長率は、物価の変動を除いた実質で「1.4%」という数字でした。

この中で政府は、新年度の経済について「雇用・所得環境の改善が続き、経済の好循環が進展する中で、内需を中心とした景気回復が見込まれる」とし、プラス成長が続くという見通しを示したのです。

しかし、この成長率を見た時、私は正直驚きました。というのも民間のエコノミスト30人余りが示していた新年度の経済成長率の見通しの平均は、実質で「0.49%」(12月調査時点)で、その数値をはるかに上回っていたからです。

民間予測との大きな差について記者会見で問われた西村大臣は、政府が実施を決めた新たな経済対策の効果が着実に現れることを見込んでいることなどを挙げ、決して楽観的な見通しではないという認識を強調しました。

ただ、民間予測はその後、1月の調査でも、実質で「0.51%」にとどまり、政府見通しとの差は大きく開いたままなのです。

政府経済見通しは「当たる」?

この見通しは、政府内で経済分析を担当する“官庁エコノミスト”が集まる内閣府が作成しています。今回の場合、経済対策で行われる事業ごとに事業費をはじき出し、その効果を個人消費や設備投資などの項目ごとに、どれだけ成長率を押し上げるのか精緻に積み上げた結果、1.4%の数字になったとしています。

ではこの見通しには、どれくらいの精度があるのでしょうか?1年間のGDPの実績値が公表されている2018年度までの10年間で調べてみました。政府経済見通しで示された翌年度の実質の成長率の予測値(閣議決定時点)と、実際のGDPの伸び率(各年度2次速報時点)とを比べて正確性を検証します。

その結果、10年のうち、実際のGDPが、政府見通しを上回ったのは2回でした。残りの8回は、実際のGDPの伸び率が、政府見通しをいずれも下回りました。

10回中8回は、「見通しが外れた」と言えるかもしれません。

このうち、実際のGDPが政府見通しを最も下回ったのは2014年度。政府見通しは実質1.4%でしたが、実際のGDPはマイナス0.9%となり、2.3ポイント下振れしました。

この年は4月に消費税率が8%に引き上げられていて、増税の影響が政府の予想よりも長く、大きくなったことがうかがえます。

一方で、上回った2回はと言うと、2017年度は1.5%の見通しに対して1.6%となっていてほぼ「的中」。2010年度は1.4%の見通しに対して結果は2.3%となりました。リーマンショック後の景気回復の動きが、政府の予想以上に進んだことがうかがえます。

予測なの?それとも目標なの?

さらに民間のシンクタンク「ニッセイ基礎研究所」が2018年度までの39年間の実績を調べたところ、実際のGDP伸び率と政府見通しとの誤差(実績値-見通し値)は、平均でマイナス0.66%となりました。

この39年間で、政府見通しが実績を上回る「過大予測」は24回(62%)だった一方、見通しが実績を下回る「過小予測」は14回(36%)だったということです。

調査を行った斎藤太郎 経済調査部長は次のように話しています。

斎藤太郎 経済調査部長
「実際のGDPは政府見通しと比べて明確に下振れする傾向にある。政府見通しは過大予測となることが多いが、その背景には、単純な経済予測ではなく、政府としての『目標』の意味合いが強いためではないか」

予測下振れで起こることは

しかし、この政府見通しの下振れを、単に「いつも当たらない予想」だとして片づけることはできません。というのも、この見通しを前提として、政府はその年の法人税や所得税などの税収を見積もっているからです。

その「歳入」も踏まえて支出にあたる「歳出」が決まり、国の予算の全体像できあがっていきます。つまり、その根本となる成長率の見通しが下振れすれば、予想していた税収も下振れするおそれが高まる、だけど歳出は予定どおり行われるーーということで、足りなくなった分を新たな借金にあたる国債の新規発行で賄うことになりかねないのです。

家庭に例えれば、「ことしは給料が上がるはず」という根拠のない自信をもとに奮発して新車を買ったはいいけれど給料は上がらず、追加で借り入れを増やさなくてはいけなくなった、という状況でしょうか。

家庭なら、「誰が給料上がると言った?」と夫婦の間でいさかいになりかねません。今年度も当初は1.3%の成長率を見込んでいましたが、7月に0.9%に下方修正されました。

結果的に、税収は当初の予測を下回ることになったため、今年度の補正予算で2兆2000億円余りの赤字国債を追加発行することになりました。

ことしの経済の焦点は

西村経済再生担当大臣は、実際のGDPが政府見通しを下回ることが多いことについて、「経済は生き物であり、海外経済の影響も受けて自国だけで完結する話ではないためだ」と述べています。

今後も経済のリスクは山積みで、海外を見れば、米中の貿易摩擦の行方や中東情勢、ブレグジットの影響など。

国内を見ても消費税率引き上げ後の個人消費の動向や、東京オリンピック・パラリンピック後の消費や投資の動向、そしてここに来て、新型コロナウイルスの感染拡大による影響も出てきました。

政府が示した新年度の経済成長率は、実質1.4%。リスクを乗り越えて、この見通しを実現に導く力が今の日本経済にあるのかどうか、問われる1年になりそうです。

経済部記者
影圭太
平成17年入局
山形局 仙台局を経て
現在は内閣府担当