火山専門の職員を自治体に配置しようという全国で初めての取り組みです。富士山の噴火に備え、山梨県は火山の専門知識を持つ人材を行政職員として採用することを決め募集を始めました。
山梨県が全国で初めて採用することを決めたのは「火山防災職」という職種の行政職員です。
県によりますと、これまで火山の専門知識を持っている職員はほとんどおらず、富士山の噴火に備えた防災対策などについては、職員が研究者から助言を受けるなどして対応していました。
しかし人事異動などで担当者が変わるたびに噴火時の対応などを学び直さなければならないなど、知識の引き継ぎに時間がかかっていました。
このため県は、火山に関連した科目を大学院で専門的に学び、火山防災などの知識を持つ人材を来年度、行政職の職員として1人採用することを決め募集を始めました。
採用試験は今月30日と来月1日の2日間にわたって行われ、教養試験と専門試験、それに論文試験のほか面接なども行われます。
採用された職員は、県の防災局や富士吉田市の富士山科学研究所などで、火山の防災対策や防災訓練などの業務を行うということです。
山梨県防災危機管理課の細田孝課長は「新たに採用する人材には、最先端の火山研究や火山防災に関する知識を発揮してほしい。地域住民や多くの観光客の安全安心を守るため、富士山火山防災の対策を充実させたい」と話しています。
火山防災に詳しい山梨大学地域防災・マネジメント研究センターの秦康範准教授によりますと、火山防災に詳しい専門家が行政側にいないために、継続性のある火山対策ができないことが全国的な課題になっているということです。
今回の山梨県の取り組みについて、秦准教授は「火山防災の専門職で行政職員の公募が出たことは、非常に画期的だと思う。行政の実務家でありながら火山防災の専門家として長期的に活動することが、さまざまな火山関係者との信頼関係を構築したり、火山関連の施策を継続的に推進したりするうえで非常に重要な鍵になると思う」と話していました。
そのうえで、秦准教授は「ほかの県でも今回の山梨の例を踏まえて、火山防災の専門家を公募するようなことを前向きに検討してもらいたい」と話していました。
自治体に火山専門の職員を配置することの必要性は、5年前、63人が犠牲となった御嶽山の噴火でさらに指摘されるようになりました。
5年前の噴火の前、気象庁は御嶽山の地下で地震が増加していたことから、「解説情報」という情報を発表していました。
しかし、防災行動を示した「噴火警戒レベル」とは異なり、この情報をどう受け止めるべきか、自治体の職員では判断が難しかったのが実情で、現在も全国の火山でその状況は変わっていません。
こうした中、自治体の職員たちがみずから火山の専門的な知識を身につけようとする取り組みも行われています。
例えば岐阜県では、御嶽山の噴火を受けて、火山防災などを担当する職員が大学に通い、噴火のメカニズムなどを定期的に学んでいます。
国も過去の噴火災害で住民の避難対応などを経験したことがある自治体の元職員などを自治体に派遣し、職員の専門的な知識の向上につなげようとしています。
しかし、こういった取り組みは、まだ一部の自治体でしか行われていないうえ、多くの自治体では2年から3年程度で異動があり、火山防災の担当職員も変わってしまうなど多くの課題が残されています。
このため、今回の山梨県のように専門性を持った職員を採用し、継続的に火山防災にあたってもらう取り組みは、有効な手段であると注目されています。