《晦日 辰の刻 加代宅》
あれから六日が過ぎた。毎日祐太は楽しそうに鬼灯堂に通っていた。あまり早くからお邪魔するんやないよと言い聞かせておいたものの、どうやら昼前から行っているようだった。
「祐太、あんまり早くから行ったらお邪魔やよ。あそこは夕方からの開店なんやから」
「だって輝おじさんが、お昼も一緒に食べようって言うんやもん。それに開店時間からやったら、お母ちゃんが夕方迎えに来るまであんまり時間ないやんか」
「えっ、あんたお昼までご馳走になってるの?」
「ご飯作ってくれんねん。輝おじさんのご飯、すごい美味しいねんで」
「もうそれをもっと早く言ってよ。恥ずかしい。それやったらお母ちゃん、これから腕によりをかけてお弁当二人分作るから持って行ってや」
「はあい」
加代は出勤時間までの間、なんとか買い置きの材料で彩色弁当を作った。
「明日からは、もうちょっとええのん作るからな」
「わあい、お母ちゃんのお弁当、楽しみやなあ」
(そうか、子供ってこんなことでも喜んでくれるんや)
多忙に追われて、お昼代だけ握らせていた自分を加代は反省していた。
(もっといい母親にならなあかん)
加代は自分に言い聞かせていた。
「お母ちゃん、またこれ、もろた」
その日の夕方、パートを終えて迎えに行くと、帰り道で祐太があの菓子折りを出して加代に見せた。
「これ、どないしたん」
「今日、店にきれいなおばちゃんが来て、これ輝おじさんにお土産や言うてくれてん」
(あの人、また来てはるんやわ)
「ふうん、そんで、そのおばちゃん、何の話してはった?」
「なんか、ようわからへんけど、影夜がどうとか、だれかの話してしてたよ」
「ほんで、長いこといてはったん?」
「うーん、わからへん。でもろうそくのお話とかもしてくれたよ」
「そう、よかったねえ」
(そうかあ、やっぱりあの日だけと違うかったんやわ。これからも、しょっちゅう来はんねやろか)
加代は自由に動けない自分の身が悔しかった。
祐太を寝かしつけると、加代は鬼灯堂に駆け付けた。
「輝さん、こんばんは」
「ああ、加代さん、ろうそくの用意できてますよ」
「いつも祐太がお世話かけてすみません」
「いいんですよ。わたしも祐太がいると楽しいですし。ところで加代さん、一日に何度もここへ来るのは大変でしょう。祐太のお迎えの時にろうそくの準備をしておきますよ」
「えっ、いいんです。ここに来るのが大変なんてことはないですから」
ろうそくは本当は一か月分をまとめて買ってもいいのである。しかしそれでは毎日ここに来る口実がなくなってしまう。それで加代はその日使うぶんしか買っていかないようにしていたのであった。
「それから加代さん。お弁当作りも大変でしょう。冬休みの間は、わたしに任せていただいてかまいませんよ」
「わたしの作る、お弁当、お口にあわへんのでしょうか」
加代はどきどきしながら聞いていた。
「いいえ、とてもおいしいですよ。わたしの分までありがとうございます」
「よかったあ。もしよかったら、わたしにこのままお弁当作らせてください。お礼といっては何なんですけど、わたしも何かしたいし、それに祐太が喜ぶんです」
「そうですか、それならわたしもありがたいですしお願いします」
「はいっ」
輝夜にほめられて、加代は天にも昇る心地だった。
「あの、瑠璃さん、また来てはるんですか」
「ええ、今日もおいででしたよ」
「あっ、なんかいつも美味しい和菓子をいただくので。それでまたお礼を言いたいなと」
「今度は元日に来られると思いますよ」
「元日ですか。わかりました。わたしも来ます」
つづく