第18回実践シナリオ・小説教室 課題 小説『コスモス』 | あべせつの投稿記録

あべせつの投稿記録

投稿小説・エッセイなどの作品記録用ブログです

『コスモス幻想曲』  あべせつ


青年は、これからの自分の行く末を思い悩んでいた。

寝付けぬ夜、部屋の空気の重苦しさに耐えられず、何物かから逃れるように外に出た。


月は、本来であれば秋の夜の覇者となるべきその金色の光玉の姿に、白々とした薄雲の衣をまとわせ、まるで恥じらう少女のような臆病な様子を見せていた。


青年はその深い水底のような蒼い夜のしじまを、あてどもなく彷徨い続け、やがて小川のほとりへと出た。


さらさらと流れる清流の音が耳をくすぐり、ひんやりとした川風が頬をなでていくと、たかぶった気持ちが少し落ち着いたのか、青年は川縁に立ち止った。


その時、さっと雲が晴れ、冴え冴えとした月の光があたりを照らし出すと、まるでその月光を受けて一斉に花開いたかのように対岸の河川敷一面に白い花の群生が夜目にも鮮やかに浮かびあがってきた。 


(あんな所に花畑が)


青年がその幻想的な光景に見とれていると、その花々の中から突然一人の少女が現れた。 


(花の妖精?)


白いドレスに波打つ長い髪の華奢な少女が、青年の気配にこちらを振り返った。


青年は思わず小川の中に入り、スニーカーがずぶ濡れになるのもかまわず川を渡った。


『逃げないで。何もしないから』


青年の姿に驚いて逃げようとする少女に、彼は思わず声をかけた。


その優しい声音に安心したのか、少女は立ち止り、こちらに向き直った。よく見るとドレスではなく、フリルの付いた真っ白い夜着を着ていた。


『女の子が一人でこんな遅くに何をしているの?』


『コスモスを見に来たのよ』


『コスモス?』


『うふふ。この白い花のことよ』


『わたしの病室の窓から、このお花畑が見えるの。一度でいいから、ここに来てみたくて。こっそり抜け出てきちゃった。明日は大きな手術するから。もしかしたらもう見れなくなるかもしれないから』


『えっ?』


月にまた雲がかかり、一瞬の闇が訪れた。


数秒か、数分なのか、青年が我に返るともう少女の姿はなく、ただ白いコスモスが風に揺れていた。            完