それからしばらくして、いよいよオグニが物忌み小屋に入る日が訪れました。
この日を待ちかねていた若者たちは、浮き足立ってヒトガタを作り始めました。
ある者は多くの褒美を与えて土師に立派なヒトカタを焼かせて、翡翠の耳飾りや美しい貝殻の首輪で飾り立てました。
またある者は自分で土をこね、窯で焼きました。そうして近隣のムラムラからもヒトガタは届けられ、物忌み小屋の前はたちまち、たくさんのヒトガタが並べられることとなりました。
十日のお浄めの日が過ぎ、いよいよオグニが小屋から出るときが来ました。
オグニが戸口を開けて外に出ますと、太ってずんぐりとしたヒトガタが数十も並んだその中で、一際大きくそびえたつ美しいヒトガタがありました。
その人型はオグニの膝の高さよりも高くほっそりとして、その長い足には最新流行の裾広がりのズボンのような衣装をはいていました。
そしてその耳穴には玉石を磨いてくり抜いた耳飾りが真珠色に光っていました。
『オウウのヒトガタだわ。』
一目でわかったオグニは他のどんな豪華な装飾品のついたヒトガタにも目もくれず、その美しい女神のようなヒトガタを選び抱き上げました。
こうしてオグニはオウウを婿として決めたのでした。
「あれほど口を酸っぱくして言い聞かせたのに、オグニのやつめ。オウウを選びよおったわい。まったく親不孝者な娘だ」
オウウを選んだオグニに父長はひどく立腹していました。
「でもあなた、ここで頭ごなしに反対すれば気丈なオグニのこと。家を出て山で暮らし始めるかもしれませんわ」
「な、なんと?うーむ確かにそうじゃな」
頭を抱え込む父長に奥方様は
「ねえ、あなた。あなたがお気になさっておられるのは、オウウが山の民だからということだけなのですわね?それならば良い考えがありますの。」
「よい考えが?」
「ええ。オウウには猟師を辞めて山から下りてもらい、畑仕事を覚えてもらえばよいのですわ。」
「うむ。それならば何も反対する理由はないのだがな」
二人は早速、オグニとオウウを呼び、この話をすると、若い二人は一も二もなく喜びました。
そしてオウウはその日からオグニの家の離れに住み込み、父長から農業のすべてを教わることとなりました
。時節は夏の終わりを迎えておりましたので、この秋の収穫が無事に終われば、いよいよ結婚式をとり行おとういうことになりました。
それからオウウは一日でも早く覚えようと、毎日父長に付いて畑に出ては必死に学びました。オグニはいつもオオウがそばにいてくれるのが嬉しくてなりません。
オグニも母上様から、家事や奥方としての仕事などを一生懸命教わりました。