『くろねこ』 あべせつ
ある冬の日のこと、玄関脇に留めてあった自転車に乗ろうとすると妙に重い。後ろカゴにつけたカバーを開けてみると、なんと茶虎の大きなオス猫が入っていて、こちらの顔を見るなり、人なつこく「ニャア」と鳴いた。
「寒なってきたから、そんな所に入ってるんやろう。可哀そうやから小屋を作ってやれ」と老父に言われて、日当たりのよい玄関ポーチに組立式の簡易温室をしつらえ、中に古毛布を敷いてやった。
本当は家の中で飼ってやりたかったのであるが、当時の我が家には既に内猫が7匹もおり、猫同士の相性の問題もあって中に入れてやることが出来なかったのだ。
茶虎はその小屋がいたくお気に召したようで、そのままそこに居着くこととなった。
数日すると、茶虎はちゃっかり自分の友達を連れてきた。全身が真っ黒い短毛の猫だ。
自分のご飯をその黒に食べさせている。
それならばと、その日から二匹分の皿を用意してやることにした。
すると黒は毎日ご飯時になると、どこからともなく現れるようになったが、根っからの野良猫であったらしく一向になつかない。
人の気配がすると、すっと車の下に隠れてしまう。それではっきりと全身を見たことはないのであるが、どうも日によって印象が違う。大きいようにも見えるし、小さいような気もする。顔が逆三角形のようにも見えるし丸いようにも見える。
どうにも不思議な猫である。
しかしある日のこと。その謎が解けた。
ふと自宅前に広がる河川敷の植え込みを見ると、そこに大中小の黒猫が3匹いた。
なんと黒猫は一匹ではなく、母親と子が二匹であったのだ。なるほど、だから印象がさだまらなかったのかと合点がいった。
ひょっとすると茶虎の嫁と子であったのかもしれない。 完