母が 要介護2に認定されたのは
4年前
先日
コロナ禍で
ずっと先延ばしされていた
介護認定調査員との面談が
ようやく 行われた
その間
母の病気は 確実に進行し
同じ 要介護2でも
自立度は 格段に下がった
ただ
介護保険を巡る
財政状況の厳しさなども あって
認定が
以前より 厳しくなっている
との噂も 聞いていたので
今回
どのように 評価されるのか
私としては ドキドキだった
もし 介護度が上がって
介護ポイントが 増えたら
利用したいと思う サービスは
いくつか ある
ただ
母は
トイレは まだ自力で行けるし
暴力や暴言も 多い方ではない
記憶力は
3歩進めば デリートされる
ニワトリ並みであるけれど
それでも
要介護2に 留まる可能性は
あるかもね
と予想していた
の ・ だ ・ が
その面談の 前日
我が家を訪問した ケアマネさんは
母に 言った
Sさん
面談の時
頑張りすぎないでくださいね
もし 頑張っちゃったら
もしかしたら 介護認定が
2から1に 下がっちゃうかも
しれませんからね
えっ
要介護1になることも あるんですか
想像とは真逆の言葉に
思わず 横から
口を挟む 私
そんなに厳しいのか
介護保険財政
介護度が下がったら
使える介護ポイントも
減ってしまう
それは困る 絶対
車椅子をレンタルして
週5日 デイホームに通っている
今
使えるポイントは ギリギリ
ポイントが高い
ショートステイを利用する月には
デイホームを休ませるために
わざわざ お墓参りや
親戚訪問の予定を入れたりして
ポイント調整することも
私たちの話を聞いていた 母が
要介護1と 2と
どっちのほうがいいの?
と聞いてきた
2だと
デイホームに
今まで通り 通えるけど
もし Sさんがお元気そうに見えて
1と判断されたら
デイホームに通える回数が
減ってしまうんですよ
ケアマネさんから そう説明され
母は
あらあ
それは 困るわ
と困惑しながらも
ちょっと いたずらっぽく
じゃあ
私 何もできないんです~
娘に頼ってるんです~
って言って
認知症のフリをすれば
いいのね
な~んて言っちゃって
認知症の 自覚がないところが
実に 認知症
そして
面談 当日
その直前まで
私は 母に
頑張りすぎないように 言い含め
母も
わかった
と答えていた
のに
マンガにも描いたように
面談が始まった 途端
母は
真逆の態度をとってきた
さすが 認知症患者として
期待を裏切らない 忘却ぶり
あれも やっている
これも できる
と 次々 大風呂敷を広げていく
母
それに応えて 調査員も
え~ すご~い
うわあ お元気なんですねえ
と感心したように 相槌を打つ
打ちながらも
その手は 冷静に動いて
何やら 書類に
文字を書き込んでいる
それが
私を 不安にさせる
母に分からないように
エアーで 一生懸命
母の言葉を 否定するも
嫌な予感しか しなかった
いくら プロの調査員とはいえ
母の日常を知らない人が
この ペラペラと喋りまくる
様子を見て
一体 何がわかるだろう
そのうち
母の語る
大風呂敷ストーリーには
妄想の 尾ひれが付き
背びれが付き
いつの間にか
壮大なファンタジーと 化していた
そこでは
現実にはありえないことが
語られていた
例えば
ご近所の親友 Aさんと
お喋りするために
私 毎朝
ラジオ体操に行ってるのよ
(↑妄想)
と話した 直後に
Aさんが 亡くなって
寂しいの
(↑現実)
と 涙ぐむ
そして 調査員に
日常生活の困り事は ありますか
と聞かれた時
母は
困りごと?
特に ないわねえ
きっぱりと そう答えた
娘が 心配して
色々 言ってるみたいだけど
オーバーなのよ
私は 一人で暮らししたって
な~んも困らないんだから
そうして
身を乗り出して
調査員に 耳打ちするように
娘もね
私を介護してる という名目で
ここに 一緒に住んでいると
いろいろ 助かるんですよ
だって ここにいれば
家賃も 生活費も かからないでしょ
そう 言ったあと
まあ でも 娘が助かるなら
私も 娘といると
便利なこともあるから
いいんだけど
と 付け加えて
イタズラっぽく
私の顔を 覗き込み
ね?
と 同意を促した
母の
「ひとりで 暮らせる」
という認識は
病気が そう思わせているんだから
まだ いい
本当に 私がイヤなのは
娘は 嫁に行った身なんだから
本来
この家にいるべきでは ない
母の考え方の 根本には
そんな 昔ながらの
家制度があって
同時に
娘なんだから
親が 年老いたら
世話をするのは 当たり前
といった
男尊女卑の考えが
あることだ
母が生まれ育った
場所や 時代は
それが
当たり前だったのだろうけど
今は 違う
少しは アップデートしてほしい
今は 少子化だし
長寿社会だし
年金が少ないので
高齢になるまで 働く時代だ
親の介護と
自分の生活の両立は
難しい
だからこそ
今の 介護保険の仕組みは
「高齢者が 可能な限り 自立し
子どもを頼らず 生きていける」
ように 作られているのに
そもそも
母が 本当は頼りたかった
自分の息子家族からは
ものの見事に
無視され続けているのに
私は
母の言葉に
同意は示さなかったけれど
努めて 不快な感情は
表には出さなかった と思う
ただ
帰り際
玄関の外に 出てから
調査員に
母は 饒舌だし
しっかりしているように
見えるかもしれないけれど
と前置きして
最近
足腰が 大分弱っていて
階段を 四つん這いで上ること
妄想が激しくなって
夜中には
幻覚も 出始めていること
先日は
大事には至ならなかったけど
徘徊があったこと
などを 伝えた
調査員は 頷きながら
私の話を聞いていた
その後
ひとつ
お伺いしたいのですが
と言って
彼女は
意外な言葉を 口にした
もし 要介護3に上がると
使えるポイントは 増えますが
少し 施設の利用料が
上がってきます
ご家族としては
どちらがいいですか
そして
もちろん これから
かかりつけ医などと図って
決めるので
どうなるかは わかりませんが
という言葉を 付け加えた
私の答えは 一択だった
もちろん
要介護3になれば
ありがたいです!
帰り際
調査員は 自転車に乗りながら
娘さんも
親とはいえ
毎日 たいへんですよね
と 言ってくれた
ありがとうございます
私は
小さく 頭を下げた
遠ざかる 自転車を
見送りながら
ずっと年下の調査員の 気遣いに
涙が出そうだった
それは
介護認定調査の 手引にある
対応マニュアルの
ひとつかもしれないけれど
わかってくれるひとが いた
そう 思えただけで
うれしかった
その後
届いた
要介護認定結果通知書には
晴れて
要介護3 の文字が
印字されていた
これからは
辛くなった時に
心置きなく
ショートステイを 使える
デイホームの回数も 増やせる
使いたい介護用品も 頼める
有り難い
というわけで
私の介護生活は
心機一転
新たなステージに
突入したのだった