届いた荷物の中に

エアー緩衝材が入っていると

 

私は

ちょっと うれしい

 

 

いつも

先ずは 中身のチェックより

あれを床に置いて 踏みつけるのが

私の流儀

 

 

それは

結構な音を立てて 弾ける

 

ちょっとしたストレス解消に

ぴったりだ

 

コンニャロ

コンニャロ

 

とでも叫びながら 踏むと

よりスッキリ

 

…な~んて書くと

私ってば 大分 性格悪そうだな

 

 

だけど

 

誰でも 日常の中で

ストレスを感じることはあるわけで

 

実際

私の ストレスの原因

ぶっちぎり 第一位の

うちの母ですら

ストレスを抱えているんだから(!)

 

 

 

母は

私が ちょっとした注意をしたり

否定をしたりすると

 

急に

能面のような顔になり

 

すぅ~っと その場を離れ

トイレや クローゼットに入っていく

 

その中で

 

バカバカ チ◯ドン屋

 

だの

 

 

おたんこなす

 

だの

 

おたんちん

 

などといった

今は もう死語と化した

ショーワの暴言を お吐きになる

 

 その後

何事もなかったような顔をして

出てくるんだけど


その声が 私には聞こえていない

と思っているところが

認知症

 

 

 

そして

年の瀬の ある日

 

届いた 大型の荷物の中に

大量のエアー緩衝材が 入っていたので

 

私は それらを 母に

渡してみた

 

 

おかあさん

私のこと

憎たらしい と思ったりすること

あるでしょ

 

そんな時にはね…

 

 

と ここまで言った時

母は

私の言葉を 遮るように

 

あらあ

そんな事 あるわけないじゃない

いつも 感謝してるんだから

 

な~んて 言っちゃって

 

今日は 随分

気配りできる人のように

上手に やさしい嘘を

つくじゃあないの

 

 

でも

 

前述したように

私は 母の暴言現場を

何度も 見たり聞いたりしているので

母の言葉は 完全スルー


そのまま 言葉を続けた

 

 

まあ とにかく

生きてると

腹立つことって あるでしょ

 

そんな時 これを踏むと

いいストレス解消に なるのよ

 

 

私は おもむろに

緩衝材を 一つ床に落として

 

バッキャロー

 

いきなり そう叫んで

勢いよく 足で踏みつけた

 

バンッ

 

けっこう 大きな音がする

 

びっくりする 母

 

 

私が

緩衝材を 母の足の前に置くと

 

母は 私と同じように

それを 足で踏んだ

 

が 割れない

 

もっと 勢いよくしないと

 

私の言葉に 母は

今度は 力を込めて踏む

 

バンッ

 

その破裂音に

母は 一瞬 動きが止まったけど

 

すぐに うれしそうな顔になって

私を見た

 

 

それからは

次々 私から緩衝材を受け取って

バンバン 割っていった

 

軽く ジャンプもしてみる

 

アホンダラ!

 

声も出してみる

 

こんちくしょう!

 

あんぽんたん!

 

 

母の叫ぶ声は

次第に 大きくなり

 

息は上がり

 

目は据わり

 

口は 憎々しげに歪み

 

アクションは 粗暴さMAX

 

コ…コワイ

 

 

想像のナナメ上を行く

母の そのすごい迫力に

私は すっかり

気圧されてしまった

 

 

 

緩衝材は あっという間に

すべて 潰され

 

母の足元には

ぺらりとしたビニールの山が できた

 

母を見ると

ハアハア と呼吸しながら

虚無の表情を 浮かべている

 

 

私の視線を感じると

我に返ったようで

少し 顔がほころんで

 

あ~ 楽しかった

 

と言った

 

 

 

私は ビニールの山を片付けながら

混乱していた

 

 

今回は

母が ストレスを発散することが

私の ゴールだった

 

発散できて よかった

 

よかったけど

 

 

さっき見た 母のあの態度は

何だったんだ

 

燃え盛る炎を背負ったような

ど迫力な怒りは

 

 

もしかして

 

母は

 

私に対して

こんなにも 怒りを抱えているのか!?

 

 

 

認知症のひとは

感情のコントロールが

上手くできなくて

その揺れが 極端になりがち

 

それは 知っているけれど

 

 でも

 

見てはいけない

見たくない

見る必要もない

母の心の闇を 見てしまった気がして

 

ショックだった

 

 

悲しいのか 悔しいのか 辛いのか

 

自分で 自分の感情が

よく わからなかった

 

 

 

まあ でも

認知症は

 

過去の記憶が 抜け落ち

未来を予測する思考も できなくなって

最後は

”今”の感情だけに支配されていく

病気なので

 

 

だとしたら

 

 

母は 確かに

「あ~ 楽しかった」

と言った

 

 

母が あの瞬間

ハッピーだったのであれば

私も ハッピー

 


 余計なことは 考えず

今は

シンプルに そう考えることが

正解なんだろう

 

多分