数ある和田誠さんの著作の中でもひときわ名著の評判が高い
はこれからだ」各巻が、愛蔵版の名のもとに改めて刊行中です。ひ
和田さんのこの名シリーズの書評を「キネマ旬報」7月上旬号に寄
どの文章にも和田さんの映画愛が満ちあふれています。もちろん、
和田さんの凄さに改めて感動しています。
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愛蔵版 お楽しみはこれからだ
及び同PART2~7
国書刊行会
字幕に求めた人生のアフォリズム
ご存知、字幕がネタのイラスト付き名映画エッセイ集である。版元が変わり、箱入りとなり愛蔵版と銘打たれているものの、右頁が文章、左頁が線画の似顔絵というレイアウトは微動だにしない。各頁のデザインも、生前、著者が目配りしていたらしい。引用の字幕、それを巡っての楽しい裏話、飄々たる味わいの挿し絵、この三つが渾然一体となって読者を存分に楽しませてくれる。全7巻、今年1月から刊行が始まり、8月に出そろう。
全巻の大もとがキネ旬の長期、超人気連載(1973年10月上旬号より23年間。読者賞4回)なのは、いうまでもない。
多くの読者に愛されてきた古典的?映画本なので、今更、題名解題でもないが、念のために……。『ジョルスン物語』(55年、日本公開)で主人公の人気歌手アル・ジョルスンが口にする一種の捨て科白に基づく。直訳すれば「お客さん方よ、あんた達、まだ何も聞いちゃいないんですよ」といったところを、スーパーインポーズは「お楽しみはこれからだ」と訳した。著者は「名意訳であると思う」と明言するくらい気に入っていた……。
全篇通じ〈映画の名セリフ〉というサブタイトルが付けられている。例外的に日本映画がないわけではないが(『幕末太陽傳』他)、例題はほとんど外国映画からの引用なので、科白イコール字幕ということになる。
著者は画面を見詰めつつ字幕に目を凝らし、なにを求めたのか。もちろん登場人物、作品自体に対する共感、理解を深めるよすがとしたにちがいない。大好きだったジャズ、ミュージカルへの知見を広める上でも大いに役立てようとしたことだろう。しかし、それ以上に人生を生き抜くための警句を捜し求めていたふしも感じられる。
「人生の中で起こることはすべてショウの中でも起こる」(『バンド・ワゴン』)。時には和田誠は「ショウの中で起こることはすべて人生の中でも起こる」と言い替えてつぶやいていたかもしれない。「ぼくはショウ・ビジネスに非常に関心があり、……」と書いているくらいだから、このアフォリズムへの思い入れはじゅうぶんに想像がつく。
本シリーズでとり上げられた映画作品数約800。著者の異能な記憶力の賜物である。
「今月の執筆者」
安倍寧 7月『ハリー・ポッターと呪いの子』舞台版が登場します。日本人キャストの奮闘が楽しみです。