ビートリッシュ(ビートルズ的)、更にはビートルズの遺伝子という云い方があることを知った。アルバム『POWER TO THE POP』(ソニー・ミュージック・エンタテインメント)に巡り会ったお蔭だ。ビートルズは同世代並びに後続世代にどういう影響をあたえたか?この大命題をもとに、日本で新たに編集された(ここが肝心!)この2枚組アルバムについては、湯川れい子さん初め多くの人たちが讃辞を寄せている。「レコード・コレクターズ」新年号には80頁に及ぶ大特集が組まれている。屋上屋を重ねることを承知で私もひとこと。

 

 1枚目20曲、2枚目21曲、さまざまなミュージシャンたちのさまざまな楽曲が詰め込まれている。聴いていると思わずビートルズというルーツにまで遡りたくなる。似過ぎていて頬がほころばずにいられないこともしばしばだった。

 

 1曲々々を吟味するのも楽しいが、いくつかの曲の繋がりに身をゆだねるのも心地よい。私の好みは1枚目の12曲目から14曲目、チープ・トリック「ヴォイシズ」、ギルバート・オサリバン「アローン・アゲイン」、アラン・パーソンズ・プロジェクト「時は川の流れに」と繋がるあたりだろうか。

 

 誰かがフェースブック上で指摘していたが、1枚目の1曲目が「抱きしめたいぜ」を歌うユートピア、2枚目のラスト曲「ドント・ルック・バック・イン・アンガー」を歌うオアシスというくくりにも注目を。ビートルズの音楽的世界が、多くの人々にとって理想郷であり憩いの場であることを象徴している――偶然だろうが、そう受けとれなくもないからだ。

 

 このアルバムの企画者、推進者のひとり岩本晃市郎さんのライナーノーツが、総論、楽曲解説とも力作である。おのおののミュージシャンたちとビートルズの関係を語って詳細を極める。その上で岩本氏はこう結論づける。

 

 「つまりビートルズらしさとは何かというと、美しいメロディの裏側に潜んだ実験性のようなものではないか」

 

 このアルバムに収録されている41曲は、もちろんビートルズをリスペクトした上で誕生した楽曲ばかりである。とはいえ発表時に模倣という批判がまったくなかったとは限るまい。もしコピーという非難があったとしたら、どうそれを脱し独自性を獲得したか、その過程をできたら知りたいと思う。

 

 『パワー・トゥ・ザ・ポップ』は、洋楽でありながら日本のレーベル、ソニー・ミュージックのディレクター白木哲也さんが企画制作したアルバムである。発想から実現まで約40年と聞く。国際的にも注目を浴びることを期待したい。

 

オリジナルコンフィデンス  2020/1/27号 コラムBIRDS EYEより転載)

 

ビートルズのDNAを引き継いだアーティストたちの系譜が綿密に検証されている貴重なアルバムです。 楽しいし、勉強にもなります。