ロンドンの夏の風物詩BBC Promsが、この秋初めて日本での引越し公演をおこなった。題してBBC PromsJAPAN2019。東京、大阪で計6回。その最終日(11月4日、オーチャードホール)を聴いた。とても楽しかった。

 

 クラシック、ポピュラーのジャンルを超えた、まずは聴衆ありきのポップス・コンサートである。ボストン・ポップスの英国版か。ステージにはBBCスコティッシュ交響楽団がところ狭しと勢ぞろいする。五つあるBBC傘下のオーケストラのひとつで、グラスゴーを根拠地としている。指揮トーマス・ダウスゴー。民族衣裳のバグパイプ奏者が客席から登場し、オーケストラと一体となってスコットランドゆかりの楽曲を演奏するのは、当然のなりゆきだろう。

 

 並べられた〝料理〟は大皿あり小皿あり。共演者も女性のアルト・サックス奏者ジェス・ギラム、日本側ゲストのソプラノ歌手森麻季と色とりどりだった。PRアンバサダーの肩書きを持つ葉加瀬太郎が、指揮・ヴァイオリン演奏で自作を披露したばかりか司会進行役も相務めた。彼の専門知識と適度に軽妙な個性がこの催しによく似合っていた。

 

 最高の聴きものはヴァイオリンの超名手ワディム・レーピンを迎えたフランツ・ワックスマン作曲「カルメン幻想曲」だった。おなじみのオペラ「カルメン」のアリアが肉声からヴァイオリン演奏に変身し、一直線に迫ってくる。音色(ねいろ)のなんとスリリングなこと。超絶技巧に次ぐ超絶技巧で陶然となる) 暇(いとま)さえなかった。

 

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 最後は「ヘイ・ジュード」、スコットランドゆかりの「蛍の光」が観客の大合唱とともに場内に響き渡った。打ち上げパーティーでポール・マデン駐日英国大使が、「私にとって二番目の感動的な『ヘイ・ジュード』でした」といっていたが、このような舞台と客席の一体化こそポップス・コンサートならではの大いなる喜びにちがいない。ちなみに大使の「ヘイ・ジュード」ナンバーワンは、東京ドームでのポール・マッカートニーの歌と演奏によるものだそうだ。

 

 東京にはさまざまな音楽祭がすでにある。上野で催されるクラシック中心の東京・春・音楽祭。フランス・ナントの音楽祭と提携し丸の内でおこなわれるラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポンもすっかり定着した。渋谷には丸の内から引っ越してきた東京JAZZがある。BBC Proms JAPANの第2回目も、来年、オーチャードほかで開催されることがすでに決まっているという。

 

 音楽祭は都市の文化度を計測するバロメーターだ。日英がコラボするこの音楽祭、さてどう成長していくか?

 

  (オリジナル コンフィデンス  2019/11/25号 コラムBIRDS EYEより転載)

 

               当日は素晴らしい顔触れがそろった。来年も楽しみです。
                                        (パンフレット掲載写真)