静かにだけれど、古関裕而ブームが起きそうな気配が漂い始めている。来年前半のNHK連続テレビ小説が古関裕而、金子(きんこ)夫妻をモデルにした物語になると発表されたからだ。題名は『エール』。もちろん夫が作曲家、妻が声楽家という設定になるのだろう。時代背景は明治から昭和に及ぶという。脚本は林宏司(『コード・ブルー』『ハゲタカ』)、裕而役は窪田正孝、金子役はオーディションで選ばれるとのこと。

 

 古関の作曲活動は芸術作品から大衆歌謡まで驚くほど幅広い。歌謡曲、軍歌、応援歌、エトセトラ。音楽はほとんど独学で、若いときストラヴィンスキー、ムソルグスキー、ベルリオーズの影響を受けたようだ。1929年、イギリスの音楽出版社の作曲コンクールで舞踊組曲「竹取物語」が入選を果たす。菊池清麿著「評伝古関裕而 国民音楽樹立への途」には「雅楽の伝統旋律を踏まえ平安朝の艶美を楽想にし」と書かれている。

 

 来春の朝ドラ、そして東京オリンピック・パラリンピックを控えているからだろう、先ごろ『古関裕而生誕110年記念スポーツ日本の歌~栄冠は君に輝く』2枚組(日本コロムビア)がリリースされた。応援歌は早稲田、慶應、巨人、阪神どこでも来い。五輪関連の曲も複数ある。格調と親しみやすさが共存する作風故、この手の注文が絶えなかった?

 

 当然ながらスポーツ関連の歌は勇壮活発だ。おのずと血が熱くなる。聴きながら同じ作曲家が手掛けた軍国歌謡についつい思いを馳せてしまう。「露営の歌」「若鷲の歌」「ラバウル海軍航空隊」など。応援歌に比べるとどこか悲壮感が漂うものの、応援歌と軍国歌謡はコインの表と裏ではないか、という感慨から逃れられない。

 

 『思い出の昭和ラジオ・テレビ番組主題歌テーマ音楽全集』(日本コロムビア)にも、古関作品がいくつか収められている。「とんがり帽子」「さくらんぼ大将」「君の名は」などで、いずれもNHKラジオ連続放送劇の主題歌として人々に愛された。戦中、戦後を通じ古関メロディは日本国民の心にしっかり喰い入っていたようだ。

 

 歌謡曲のヒット作も数多い。代表作としてなにを挙げたらいいのか。「船頭可愛いや」(音丸)「長崎の鐘」(藤山一郎)「イヨマンテの夜」(伊藤久男)「高原列車は行く」(岡本敦郎)……。

 

 古関裕而は、日本大衆音楽史上、古賀政男、服部良一らの蔭に隠れ、地味な存在という印象がなくもない。来春の朝ドラをきっかけに、昭和という時代の影を色濃くまとうこの作曲家の全貌がより明らかになることを願う。

 

オリジナルコンフィデンス  2019/5/27号 コラムBIRD’S EYEより転載)

 

このアルバム2枚で古関作品がたっぷり楽しめる。