この7月〜8月、東急シアターオーブでミュージカル『王様と私』の来日公演がおこなわれます。

 2015年、ブロードウェイ、2018年、ウエストエンドで上演され、極めて高い評価を得た舞台です。私が自信をもってお薦めしたい作品でも
あります。皆さん、Don’t miss it!

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Photo by Matthew Murphy The London Palladium Production

 

  われらが渡辺謙が、2015年、ブロードウェイで『王様と私』のシャム王役に抜擢され、トニー賞主演男優賞にノミネートされたことからして、想像を超える〝奇跡〟だった。英国人家庭教師アンナ役ケリー・オハラ(トニー賞主演女優賞受賞)とのぴたり息の合った競演ぶりは、今も私の脳裡に深く刻まれている。

 

 その大看板ふたりを筆頭に据えたカンパニーが、この夏、東京・渋谷にやって来る(渡辺にとっては凱旋公演?)。これが奇跡でなくてなにが奇跡か?

 

 作品自体、トニー賞最優秀リバイバル・ミュージカル賞を受賞している。演出・振付・美術・音楽あらゆる面において、優れたミュージカルの必要条件、すなわち優美さ、繊細さ、斬新さなどすべてを満たしていた。昨年、ロンドン公演も大成功し、更に磨きがかかっている。

 

 名作の誉れ高い『王様と私』(1951年初演)は、ミュージカルの今日ある姿かたちを作り出したオスカー・ハマースタインⅡ(脚本・作詞)、リチャード・ロジャース(作曲)コンビの手になる。彼等は『南太平洋』『サウンド・オブ・ミュージック』などあまたの傑作を生み出したが、『王様と私』はひときわエキゾチシズムの香りを漂わせる。

 

 そして何よりミュージカル・ナンバーの宝庫なのが嬉しい。王の独白「パズルメント」、アンナと子どもたちの合唱「ゲティング・トゥ・ノウ・ユー」、アンナと王の歌い踊る「シャル・ウィ・ダンス?」エトセトラ、エトセトラ……。

 

 物語の背景は1860年代のシャム王国(現在のタイ)である。王は近代化と伝統保持の狭間で悩み苦しむ。その孤独な姿を垣間見たアンナの胸のうちに湧き出づる思いは?

 

 ふたりの葛藤・対立のうしろに、今日なお世界中で絶えることのないさまざまな〝壁〟が透けて見える。もしかすると、それが演出したバートレット・シャーの狙いだったかもしれない。

 

 しかしあくまで、『王様と私』は真摯で情愛に満ちた大ロマンスである。さあ私たちもいっしょにシャル・ウィ・ダンス?

 

                    (朝日新聞2/23付朝刊『王様と私』全面広告より転載)

 

 

Photo by Matthew Murphy The London Palladium Production

 

 

公演情報: https://theatre-orb.com/lineup/19_KingandI/