ジャズの生き字引き行方均さんの近著「ジャズは本棚に在り ジャズ書と名盤」(18年11月、シンコーミュージック刊)が滅法面白い。ジャズ関係の書籍、雑誌が92冊紹介されている。ジャズ史あり、著名な音楽家の評伝・自伝あり、はたまたジャズを題材にした小説あり。

 

 大きな書店へいくとジャズ専門の棚が設けられているくらい、世間にはこの分野の専門書、啓蒙書があふれているが、これらジャズ本について論じた書籍は今までに一冊もお目にかかったことがない。

 

 「ジャズ批評」16年9月号(特集〝ジャズファンが愛するビートルズ&ビートルズ・ジャズ〟)をとり上げた章に、行方さん自身がなぜジャズにとり憑かれたのか、その経緯が詳しく書かれている。これが大変興味深い。実はビートルズ経由でジャズにたどりついたというのだ。

 

 1951年生まれ、ビートルズ第一世代を自認する著者は「ジャズの知識など皆無」だったという。ジャズにのめり込んだきっかけは、『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』の収録曲「ア・デイ・イン・ザ・ライフ」である。ビートルズのアルバム発売直後、ジャズ・ギターの大御所ウェス・モンゴメリーがこの曲をカヴァーし、アルバムに収めたからだ。愛するビートルズの楽曲が、ジャズという未知の音楽スタイルで演奏されるとどう変化するのか、そこに興味を抱いたのだろうか。

 

 「僕(ら)は、このアルバムによってジャズと本格的に出会いました。あるいは僕ら(高1)より年長のジャズ・ファンの中には、このアルバムによってビートルズと出会った方々も多かったのでは」

 

 ジャズ・ピアニストを主人公にした石原慎太郎の短篇「ファンキー・ジャンプ」についての論評も的を射ている。

 

 「ジャズ演奏そのもののリズムとアドリブを感じさせる演奏中の敏夫の意識の流れに沿っていきます」「本篇はつまり、ジャズについての小説であると同時に、小説自体がジャズのように自発的、即興的であろうとする実験的な試みでもあります」(注、敏夫は主人公の名前)

 

 1959年に書いた小説が、今、このようにジャズ専門家から高い評価を受けようとは!

作家としてもって瞑すべしではないか。

 

 音楽家の伝記類ではビリー・ホリデイの「奇妙な果実」、「マイルス・デイヴィス自伝」など、ジャズ・ファン必読の書がずらりと並ぶ。行方さんはブルーノート博士でもあるので、自著「ブルーノート再入門」初め関連書への目配りも怠りない。もちろん本と関係のあるアルバムの紹介もきちんと付記されている。聴いてから読むか、読んでから聴くか。

 

(オリジナル コンフィデンス  2018/12/25号 コラムBIRD’S EYEより転載)

 

聴いてから読むか、読んでから聴くか?