© 2017 Broad Green Pictures LLC

 

 優れた音楽ドキュメンタリー映画に出逢った。『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ・アンコール』(7月20日公開)である。踊り出したくなるような能天気な場面と胸が締めつけられそうな悲しい場面が、入れ替わり立ち替わり現われる。当然、それぞれの場面にふさわしい音楽が鳴り響く。

 

 見ながらキューバ音楽の特色は陽気さと哀切さにあると断じたくなった。曲によっては相反するふたつの特性が同居しているものもあるのでは?

 

 前作『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』(1999)で監督を務めたヴィム・ヴェンダースは、今回は製作総指揮に回る。あとを受け継いだルーシー・ウォーカーがしっかりといい仕事をしている。さすがアカデミー賞ドキュメンタリー賞(長、短編両部門)にノミネートされただけのことはある。

 

 内容が充実したのは、ひとつには多くの新しい映像資料が発見されたことによる。対象となる老音楽家たちが前作のとき以上に年齢を重ね、いっそう存在感を増したこともある。なかには作品の完成を待たずに亡くなった人もいる。

 

 冒頭、カストロ議長の死が伝えられる場面が出てくる。終わり近くでは音楽家たちがホワイトハウスに招かれ、オバマ大統領の前で演奏する光景が映し出される。キューバ音楽と移り変わる国家体制との微妙な関係がなんとなくわかる。

 

 ブエナ・ビスタのアルバムがグラミー賞を受賞した際、ビザが発行されず、メンバーはアメリカ入国もセレモニー出席もかなわなかったという。

 

 キューバ音楽の歴史は、差別との闘いの歴史でもあった。かつてのブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブは黒人だけがダンスと音楽を楽しむ場所で、白人は足を踏み入れることさえなかったそうだ。

 

 この映画のいちばんの見どころは、人間国宝級?の老ミュージシャンたちのたたずまいである。ステージ上の演奏する姿の真摯なこと。日常の仕草、つぶやきも味わい深い。コンパイ・セグンド(男性ヴォーカル、トレス・ギター。1907~2003)、オマーラ・ポルトゥオンド(女性ヴォーカル、1930~)ら、誰もがいい顔をしている。

 

 一方、映画は世代交代が着実に進んでいる有様にもカメラを向ける。70~80年代生まれの新世代が頼もしい。家系が音楽家という若者も何人か登場する。

 

 『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ・アンコール』はただ2匹目のどじょうを狙っただけの作品ではない。立派に独立した秀作である。もちろん前作を併せて見る手もある。それはそれで楽しさが何倍かふえることだろう。

 

 

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