『エビータ』来日公演がいよいよ7月4日から始まります。海外カンパニーによる日本上演は初めてのことです。


 請われるままあちこちに紹介の文章を書きました。これもそのひとつです。
公演の成功を心から願って已みません。

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       不動のテーマ曲「アルゼンチンよ、泣かないで」

 

 久々に『エビータ』が見られる。嬉しい。劇団四季がなんどか日本版を上演してきたけれど、来演版は初めてだし。そしてなにより私のごひいきのミュージカルなのだから。

 

 ひいきの最たる理由。「アルゼンチンよ、泣かないで」という不動のテーマ曲があることだろう。昔はミュージカルが当たるか当たらないかは、観客が劇場を出るとき口ずさみたくなる曲があるかないかに掛かっているといわれたものだ。しかし、最近はそういう作品になかなかお目に掛かれない。

 

 改めてYouTubeでマドンナの歌うこの歌を聴いてみた。マドンナは映画化されたときの主演女優である。映画の場面を編集したもの、ブエノスアイレスでのコンサートからのものなど何通りかある。とくに後者、何人かのギター奏者を従えてのライヴ・ヴァージョンがいかにも南米風で、とても気に入った。

 

 ヒロインのエビータは、アルゼンチン大統領ファン・ドミンゴ・ペロン夫人だったエヴァ・ペロンである。一介の女優、歌手から美貌と策略でファースト・レディにまでのし上がった。しかも、癌のため33歳という若さでこの世を去る。これ以上に劇的な生涯を送ったヒロインはそうざらにいない。

 

 この作品は、ティム・ライス(作詞)、アンドリュー・ロイド=ウェバー(作曲)の手になる。そもそもの発端は、ライスがカー・ラジオで彼女にまつわるドキュメンタリー番組を聞いたことだという。

 

 ライスは、少年時代、切手蒐集マニアだった時期があり、コレクションのなかにエヴァの肖像切手を持っていて名前ぐらいは知っていた。それだけになにかぴーんとくるものがあったようだ。切手蒐集とカー・ラジオ。ミュージカルのネタってどこに転がっているかわからない。

 

           作品に深みを増す想像上のキャラクター

 

このミュージカルが大成功を収めた理由のひとつは、ライスが、ペロン大統領、エヴァと並んでチェという登場人物を創造したことにある。ペロン夫妻は完全に実在の人物だけれど、チェは想像上のキャラクターなのだ。キューバ革命の立て役者チェ・ゲバラがアルゼンチン生まれだと知って、ライスが生み出した人物像である。

 

 チェは物語の進行するなかで司会役のような役割を果たす。エヴァに対して好意的なときもあれば批判的なときもある。同様、エヴァの味方かと思うと、突然、敵に回る民衆に対しても常に皮肉な目を向ける。この作品が劇として深みを増したとすればチェという存在なしには考えられない。

 

 ことし3月22日、ロイド=ウェバーは70歳の誕生日を迎えた。今や『キャッツ』『オペラ座の怪人』の作曲家として世界のミュージカル界に君臨する巨匠だが、78年、『エビータ』ロンドン初演時はわずか30歳に過ぎなかった。それだけに音楽にエネルギーが漲る。

 

 このミュージカルの印象深い曲は、「アルゼンチンよ、泣かないで」だけではない。ほかにも私たちの胸に染みる曲が沢山ある。チェが皮肉たっぷりに歌う「オー・ワット・ア・サーカス」、大統領の愛する女が前の情婦からエヴァに入れ替わる場面での「アナザー・スーツケース・イン・アナザー・ホール」など。『エビータ』はミュージカル・ナンバーの宝庫といっていい。

 

ミュージカル『エビータ』

東急シアターオーブにて7月4日(水)~7月29日(日)

作詞:ティム・ライス/作曲:アンドリュー・ロイド=ウェバー/演出:ハロルド・プリンス/出演:エマ・キングストン、ラミン・カリムルー(日本公演限定キャスト)、ロバート・フィンレイソン、

アントン・レイティン、イザベラ・ジェーン、LJ・ニールソン、ダニエル・ビトン

料金(税込):S席13,500円、A席11,000円、B席9,000円、学生チケット6,500円

※生演奏、英語上演(日本語字幕あり)

[住]渋谷区渋谷2-21-1 渋谷ヒカリエ11F

[問]Bunkamura 03-3477-3244(平日10:00~19:00)

 

               ({コモ・レ・バ?} Vol.36 Summer 2018より転載)