西城秀樹が主演したミュージカルが1本だけある。私の知る限りその舞台に触れた追悼記事はひとつもなかった。今となっては見た人も少なくなったろうから当然だ。でも皆さん、「YOUNG MAN」でY、M、C、A、と歌うときのあのジェスチャアを思い起こして欲しい。ヒデキにミュージカルはよく似合うと容易に想像がつくのではないか。

 

 題名は『わが青春の北壁』。台本・作詞阿久悠、作曲・編曲三木たかし、振付山田卓、演出浅利慶太、宮島春彦。1977年7月5~28日、日生劇場。たったひとりで劇団四季のなかに飛び込むという勇気あふれる挑戦だった。

 

 そのときの全15曲を収録したLP3枚組みのアルバムが今も私の手元にある(発売元RVC)。特に断わり書きはないが、劇場での収録らしく客席の笑い声なども入っている。西城の堂に入った科白回しもたっぷり聴くことができる。今となってはきわめて貴重な資料である。

 

 阿久悠が西城に当てて書いた役柄はもと大学山岳部員の青年有光良。山登りへの執着を断ち切り、現在はナイトクラブでロック歌手兼ドラム奏者として脚光を浴びている。生活は自堕落のようだ。

 

 良には有名登山家の兄、洋(滝田栄)がいる。洋の妻夏子(久野綾希子)と良は実は密かに愛し合う仲であった。

 

 かたわら良は自分の身代わりになって山で遭難した仲間が気になっている。あのとき良が参加をとり止めていなかったらその男は犠牲にならなかった……。

 

 改めてアルバムを聴いてみて西城のナンバーの力強さに心打たれた。声に伸びと艶がある。歌いぶりに媚へつらいがなくて清々しい。

 

 タイトル・ナンバー「わが青春の北壁」初め、クラブ・シーンで歌う「セクシー・ロックンロール・バンド」「ソウル・ベイビー」などどの曲にも、今、挙げた西城の長所があふれ出ている。久野とのデュエット「兄がいた」「時は流れて」がこれまた捨て難い。デビューして僅か5年の西城にこれほど絶妙な息の合わせ方ができるとは!

 

 音楽面全般で三木たかしが優れた仕事をしている。前奏曲を聴いただけで質の高さが鮮明に伝わってくる。西城が才能を発揮できたのも三木あってこそ。

 

 当時、三木はアンドリュー・ロイド=ウェバー作曲の『ジーザス・クライスト=スーパースター』に心酔していた。西城のミュージカルへの思い切ったジャンプも、『ジーザス~』四季版を見たことがきっかけだという。

 

 ロイド=ウェバー~劇団四季~三木たかし~西城秀樹という連環には、まぎれもない70年代の風潮が感じられる。

 

 (オリジナル コンフィデンス  2018/6/25号 コラムBIRD’S EYEより転載)

 

西城が残したオリジナル・キャスト・アルバム。LP3枚組みのレアものです。