請われるまま、またまたミュージカル『エビータ』について書きました。
6月17日朝日新聞朝刊広告面に掲載されました。

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                          (朝日新聞 2018年6月17日 掲載)

 

巨匠の名を不動にした作品の一つ

 

 世界でもっとも名の知れたミュージカル作曲家は誰?間違いなく『キャッツ』『オペラ座の怪人』のアンドリュー・ロイド=ウェバーだ。ならば、いちばん有名なミュージカル作詞家は?多分、『美女と野獣』『ライオンキング』のティム・ライスではないか。

 

 今でこそ別の道を歩んでいるが、1960~70年代、ふたりは名コンビと謳われ、次々、新作を世に送り出した。『ヨセフと不思議なテクニカラー・ドリームコート』『ジーザス・クライスト=スーパースター』『エビータ』……。どの作品も曲、詞両面で〝若書き〟らしい清新の気にあふれていた。

 

 かたわら、ふたりは若者らしからぬ老練さも垣間見せた。とりわけ『エビータ』の堂々たる風格と来たら。78年、ロンドンでの世界初演時、アンドリュー30歳、ティム33歳でしかなかった。

 

 

優れた楽曲の宝庫

 

 『エビータ』のような第一級のミュージカルが生まれるためには、三つの基本的条件が満たされる必要がある。⑴柱となるべきヒーロー、またはヒロイン像。⑵起承転結を備えた物語。⑶複数の優れたミュージカル・ナンバー。とりわけ⑶の担う役割の大きいことは、いうまでもない。

 

 『エビータ』はミュージカル・ナンバーの宝庫だ。もちろん「アルゼンチンよ、泣かないで」が突出している。この力強い旋律がなかったら、ヒロイン、エヴァの激情は観客の胸に届くべくもない。チェの「Oh What a Circus」にはエヴァと彼女を支持する民衆への皮肉な眼差しが見てとれる。この2曲、同じ旋律なのに詞、編曲が異なるため、まったく別もののような印象を受ける。こういうトリックの妙味もお聴き逃がしなきよう。

 

 エヴァの最初の男マガルディの「On the Night of a Thousand Star」も甘美と感傷にあふれ捨て難い。

 

歴史的1ページの再現 

 

 『エビータ』がミュージカル史上燦然と輝く作品になり得たのは、ひとつにはベテラン演出家ハロルド・プリンスの〝見えざる力〟が働いたことによる。彼は作品が未完成のうちからアンドリュー、ティムに助言し続けてきた。今回はそのプリンス演出による初演版の完全復活である。

 

 40年前の歴史的一頁の再現に立ち合えるなんて!こんなスリリングな機会はそう滅多にあるものでない。