久しぶりにダリダという名前とその歌声を思い出した。彼女の波瀾の一生を描いた『ダリダ~あまい囁き~』(5月19日より公開)のお蔭だ。彼女は、伝統的なシャンソンが今日的なフレンチ・ポップスに衣替えした当時の旗手で、日本でも人気が高かった。

 

 1933年、エジプト・カイロ生まれ、イタリア系。51年、「バンビーノ」がフランスで大ヒットする。映画のサブタイトルになっている「あまい囁き」(「パローレ・パローレ」)は、アラン・ドロンとの共演が話題を呼び、改めて世界中に彼女の名を知らしめた。73年のことだ。「コメ・プリマ」「バン・バン」「ベサメ・ムーチョ」など持ち歌数知れず。「あまい囁き」は中村晃子、細川俊之で日本盤もリリースされた。

 

 ダリダは恋多き女だったようだ。3人の恋人が自ら命を絶っている。イタリアの新人歌手ルイジ・テンコ、彼女を見出し、一時は夫でもあった高名なラジオ・ディレクター、ルシアン・モリス。自称錬金術師リシャール・シャンフレー。

 

 彼女自身、ルイジが自殺したとき後追い心中を試みて失敗しているし、84年、54歳で世を去ったときも睡眠薬による自死だった。華やかなスター人生だったとばかり思っていたが、これほど死の影につきまとわれていたとは!

 

 スターの光と影、栄光と悲惨について思いを巡らさずにいられない一生である。

 

 監督・脚本は、『太陽がいっぱい』でアラン・ドロンと共演した女優マリー・ラフォレの娘リサ・アズエロス。母、ドロンを介しダリダと繋がっている。

 

 ダリダを演じるイタリア人女優スヴェヴァ・アルヴィティが入魂の演技を見せる。青春期から晩年までその一生をリアルに演じ切っている。ダリダにはスター特有の〝華〟があったが、アルヴィティにもその華がある。時代の変化にとり残されたかに見えたダリダがディスコ・クイーンとして甦るクライマックスが、ひときわ見応えがあった。

 

 彼女がデビューした50年代後半は、フランスでもラジオがメディアとして大きな影響力を持っていた。オランピア劇場がシャンソンの殿堂としての権威を持っていた時代でもある。この映画は往年のフランス音楽界の有様を確認する上でも一見の価値がある。

 

 ダリダは70年、73年と二度来日している。70年のときは大阪万国博覧会敷地の万博ホールでワンウーマン・コンサートをおこなった。このとき確かに見ているのだが、歌、パフォーマンスの詳細については残念ながら忘却の彼方である。それだけに映画のお蔭で彼女に再会?できてとても嬉しかった。

 

(オリジナル コンフィデンス  2018/5/28号 コラムBIRD’S EYEより転載)

 

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     スヴェヴァ・アルヴィティ演じるダリダにオーラがある。