ことしのアカデミー賞作品賞は『シェイプ・オブ・ウォーター』に決まった。『スリー・ビルボード』など強力な対抗馬を打ち破っての勝利である。併せて監督賞、作曲賞、美術賞にも輝いたのは大変めでたい。

 

 会話能力が十全でない女性とアマゾン川で生け捕りにされた半魚人との恋物語である。この作品の特質をいい表わすのにはファンタジー・ロマンスという言葉こそもっともふさわしい。

 

 本来ならば不可能なコミュニケーションをなり立たせるためにアイ・コンタクト、手話が用いられるが、それ以上に音楽が有効な役割を果たす。怪物が閉じ込められている水槽のそばで女性が自分の好きな音楽を聴かせる場面に胸打たれる。

 

 時代設定が1962年だから、そのツールはLPとポータブル・プレイヤーということになる。音楽は浮き浮きするようなスウィング・ジャズときた。

 

 もともとふたりの間に交わされる科白はない。それだけに映像を蔭で支える音楽が重要な役割を背負わなくてはならない。オリジナル・スコアを書いたのはアレクサンドル・デスプラ。作曲賞受賞は『グランド・ブダペスト・ホテル』に次いで二度目である。

 

 この奇想天外な恋物語は水と切っても切り離すことができない。それだけにその音楽も直接的、間接的に水をどう表現するかが避けて通れない課題となる。単なる水、水の流れではなく、それこそ題名通り“水のかたち”をいかに音楽に置き換えるかが、作曲家に課せられた使命だったにちがいない。

 

 その上、“水のかたち”は“恋のかたち”でもあるのだ。デスプラは恋と水と二重の“かたち”を見事音楽的表現に昇華させている。フルート合奏、作曲家自身による口笛などを織り交ぜた手法の冴えも聴き逃がせない。

 

 また全篇を彩る優美で繊細なオリジナル音楽の流れのなかにジャズのスタンダード曲「ユール・ネヴァ・ノウ」を置いた英断にも驚かされる。誰から出たアイディア? デスプラか音楽にも一家言あるギレルモ・デル・トロ監督か?

 

 それだけではない。歌うのは世界最高峰のソプラノ歌手ルネ・フレミングである。映画主題歌、古いジャズ・ナンバー、超高名なオペラ歌手というこの組み合わせの意外性には三嘆あるのみ。

 

 フレミングのヴォーカルはジャズではないが、といってクラシックでもない。恋に震える女心を歌ってヒロインの心情に巧みに寄り添ってみせる。エンドロールでも流れるが、ジャズ風のピアノ、ベースとの呼吸の合わせ方がなんとも心憎い。サントラ盤はユニバーサルミュージックから。

 

  (オリジナル コンフィデンス  2018/3/26号 コラムBIRD’S EYEより転載)

 

 

           久しぶりに映画を甦らせてくれる素晴らしいサントラ盤です。