アレン自ら脚色した舞台裏コメディ

 ウディ・アレンは長いこと自らの脚本・監督作品でジャズ・スタンダード曲と〝同衾〟して来た。『ラジオ・デイズ』『世界中がアイ・ラヴ・ユー』『ギター弾きの恋』……。『マンハッタン』なんてオール・ジョージ・ガーシュウィンだ。

 

 どれもそのままブロードウェイに引越したってたちまちミュージカルになりそうなのに、『ブロードウェイと銃弾』(2014)までそういうケースは一本もなかった。なぜ?気難しがり屋、完璧主義者のアレンは、映画で完結しているから十分と許可しなかったのかな。

 

 『ブロードウェイと銃弾』はずばりブロードウェイの楽屋裏の物語である。それ故、アレン自身、これならミュージカル化も困難ではないと思ったのか、脚本も手掛けた。

 

  劇作家のデビッド(浦井健治)は、チェーホフ気取りで観客の受け狙いを拒否するタイプだけに、作品上演のメドがなかなか立たない。やっと金主が見つかったと思ったら、名うてのギャング、ニック(ブラザートム)と来た。親分は、自分の情婦オリーブ(平野綾)を主役に押し込もうとするわ、彼女の浮気防止のため子分のチーチ(城田優)を稽古場に張りつけるわ、やりたい放題である。

 

  ほかにもアル中気味の大女優ヘレン(前田美波里)、名演技者ながら大食漢のワーナー(鈴木壮麻)など一癖も二癖もある人物が登場し、次々と予期せぬ出来事が巻き起こる。

 

アレンが選び抜いたスタンダードの名曲

  ブロードウェイの舞台は未見なので、もとネタの映画だけ見ての感想になるが、劇中劇の稽古が白熱を帯びれば帯びるほど物語展開にも拍車が掛かる。ダメ出しを受け、デビッドが懸命に手直ししても一向らちが明かないくせに、素人のチーチが横合いから口を挟むと俄然面白さが増す、というあたりがいかにもアレン流らしい。

 

  頭でっかちの芸術家に対する強烈な当てこすりだが、もともとデビッドはアレンがモデルだという説もあるので、この痛烈な皮肉の切っ先は本人に向けられたもの、すなわち自己批判とも受けとめられる。

 

 ブロードウェイでのオリジナル演出・振付は、映画も舞台も超ヒットした『プロデューサーズ』のスーザン・ストローマンである。日本版演出は福田雄一だが、振付はストローマンのオリジナルを彼女の右腕ジェームス・グレイが来日して再現する。

 

 プロデューサーのひとりでワタナベエンターテインメント社長の渡辺ミキさんは、日本版を是非やりたいと思った動機について、こう語る。

 

 「ウディ・アレンの持ち味ってどちらかというとスノビッシュですよね。ストローマンさんは、その味を残しながら通向きに陥らず、ちゃんとエンターテインメントに仕上げていて、さすがだと思いました」

 

 音楽は、アレンが1928年という物語の時代背景に合わせ、同じ時代のスタンダード曲のなかから選び抜いた名曲を用いている。「タイガー・ラグ」「シーズ・ファニー・ザット・ウェイ」など、ジャズ愛好家ならどこかで聴いた曲がずらりと並ぶ。ジャズ・クラリネット奏者としてもプロ級の腕前(どんなに多忙でも月曜夜のクラブ出演は欠かさない)で、自他ともに第一級のジャズ通を任じるアレンのこと、音楽面での手抜かりはあるまい。

 

 もちろん女性観客には、人気、実力絶好調の浦井、城田の対決が目玉でしょうね。

 

ミュージカル『ブロードウェイと銃弾』

日生劇場にて2018年2月7日~2月28日

                 浦井健治(左)、城田優(右)

 

                  ({コモ・レ・バ?} Vol.34 Winter 2017より転載)