世界最高峰のオペラ・ハウスのひとつパリ・オペラ座の表裏を丸ごとカメラに収めた『新世紀、パリ・オペラ座』を、一足先に見た(配給ギャガ、公開は12月、Bunkamuraル・シネマ他)。

 

 一級品のバレエ、オペラはすべて優れた舞台劇だが、それ以上に舞台裏の出来事は劇的緊張感にあふれている。このすばらしいドキュメンタリー映画(監督ジャン=ステファヌ・ブロン)はそのまぎれもない事実を私たちの胸に突きつける。

 

 この監督は過去になんらオペラとの接点を持ったことがないそうだが、「映画自体が〝オペラ〟そのものになることを目指した」(プレスシート)という。

 

 監督のこの狙いは極めて正しい。オペラ座そのものが、国籍を超えた人々による喜怒哀楽に満ちたグランド・オペラそのものなのだから。そしてその狙いは見事に成功している。本年度モスクワ国際映画祭ドキュメンタリー映画賞受賞作。

 

 パリ・オペラ座総裁ステファン・リスナー初め音楽監督、バレエ団芸術監督らの日常の活動が赤裸々な姿のまま捉えられている。内部での衝突、葛藤がことごとく。すべての撮影を許したオペラ座側の太っ腹に驚かされる。国がつける予算、スポンサーからの援助金、入場料金の改変、1500人以上いるスタッフの給与などについて検討される場面も登場する。日本の新国立劇場関係者が見たら、どんな意見を口にするだろうか。

 

 ロシア生まれの新人バス・バリトン歌手がフランス語に手を焼く姿も微笑ましい。人種を超えた子どもたちのための音楽教室が運営されていることも初めて知った。

 

 もっとも緊迫する場面は新制作作品『ニュルンベルクのマイスタージンガー』の主演バス・バリトン歌手が初日直前に降りてしまうところだろうか。合唱団がどっちを向いて歌うかで大もめする場面がおかしい。

 

 パリ・オペラ座には、1989年に開場したバスティーユ、1875年から存続するガルニエと、新旧ふたつの劇場がある。主として前者ではオペラ、後者ではバレエが上演される。このドキュメンタリーが撮影された2015~16年のシーズンは偶然にも両劇場で大きな成功を収めた年だったようだ。

 

 私の個人的思い出話ひとつ。開場直前のバスティーユを見学に行ったときのこと。案内してくれた責任者に「フランスって凄いですね。国がこういう芸術の殿堂を作るのですから」といったら、その人曰く「いえ作ったのは国ではありません。その道のプロの私たちです」

 

 こういうスタッフの個人的自負がオペラ・ハウスを支えているのだろう。

 

(オリジナル コンフィデンス  2017/10/23号 コラムBIRD’S EYEより転載)

 

 

この映画には普段見られないこんな光景も。

 

 

 

レッスンに励む子供たちの真剣な眼差し。

 

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