女性シンガー・ソング・ライターの先駆けキャロル・キングに水樹奈々、平原綾香がダブル・キャストで挑戦した。もちろんふたりの演技、歌いぶり、役作りには微妙な差異がある。水樹人気で日ごろミュージカル公演に少ない男性客が増えたという噂も聞く。帝国劇場7~8月公演『Beautiful The Carol King Musical』(8月26日、千秋楽)である。

 

 水樹のキングは一貫して強く逞しい。しかし、時折、繊細さも覗かせる。ミュージカル初出演とは思えないくらい闊達に動いて見せる。片や平原のキングは優美さを貫きつつファイト精神も忘れていない。澄み切った声質が、原曲の飾り気ない旋律にぴったりと寄り添い、胸に染みる。

 

 『ビューティフル』は、キングの名だたる楽曲をベースにしたカタログ・ミュージカルである。全米ナンバー・ワン7曲、全米トップ・テン入り5曲を含む。そしてずばり彼女自身の伝記ミュージカルでもある。16歳での作曲家デビュウから29歳でのカーネギーホール・ソロ・コンサートに至る音楽家人生と併行して、結婚、出産、離婚などの私生活面も描き出される。通底する主題は女性の自立か。

 

 キングと夫(のちに離婚)で作詞家のジェリー・ゴフィン(伊礼彼方)のほか、もう一組、作曲家バリー・マン(中川晃教)、作詞家シンシア・ワイル(ソニン)のソング・ライター・コンビが登場する。この作劇術のお蔭で男女のドラマがより深みを増した。

 

更にはティン・パン・アレーと呼ばれた〝ヒット曲生産工場〟の楽屋裏を覗くことも出来る。キング初め全員実名での登場だから、私たち観客はアメリカ・ポップス史の一場面に立ち合っているような錯覚に捉われてしまう。懐かしのニール・セダカも出て来ますよ。

 

 プロットのなかに楽曲をはめ込むやり方がまた実にうまい。一例だけ挙げる。作曲家として挫折し、再起を賭けカリフォルニアに向うキングが、マン、ワイル、プロデューサーのドン・カーシュナー(武田真治)にあの「ユーヴ・ガット・ア・フレンド」を歌うところ。やがてキングの歌にほかの3人も加わる。永遠の友情が歌を通して改めて確かめられる光景に思わず胸が熱くなった。

 

 「ウィル・ユー・ラヴ・ミー・トゥモロー」「イッツ・トゥ・レイト」などキングの楽曲の優れた点は平明さにある。思わせぶりの技巧が一切ないのがいい。作り手の感情の起伏が素直に聴く者の胸に迫る。

 

 ブロードウェイ開幕は2014年1月、今も公演が続く。今回の日本版は、演出ほか米クリエイティヴ・チームによる丁寧なレプリカである。湯川れい子の訳詞はさすがツボを心得ている。

 

(オリジナル コンフィデンス  2017/8/28号 コラムBIRD’S EYEより転載)

 

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          ミュージカル 『ビューティフル』

            2017年8月26日(土)まで

                帝国劇場 

        http://www.tohostage.com/beautiful/index.html

 

 

水樹奈々( 左)、平原綾香( 右)のダブルキャストが

公演に熱気を呼び込むことに。

 

アンサンブルが歌う「ザ・ロコモーション」の景。

この曲もゴフィン(詞)、キング(曲)による大ヒット曲でした。

 

 

 

アンサンブル・メンバー(伊藤広祥、神田恭兵、長谷川開、東山光明)による

往年の人気グループ、ザ・ドリフターズの再現場面も。