5分45秒とかなり長尺だ。しかし、歌詞の中身が意表を突いている上、ドラマチックな起伏に富んでいること、更には歌いぶりが飄々(ひょうひょう)としていることも重なって、つい聴き惚れてしまう。

 

 お笑い芸人はなわ作詞作曲、本人自ら歌う「お義父(とう)さん」(K DASH Stage、ビクターエンタテインメント)である。

 

 3月4日、YouTubeで公開され、3週間でアクセスが100万回を突破し、5月24日にはCDも発売になった。

 

 はなわ本人が、去年、結婚15周年を迎えた際、奥さんに感謝の気持を込めて捧げた歌だそうだ。ただし、唯の妻よ有難うという歌ではない。義父に家庭のしあわせな有様を伝えるというワン・クッション置いた仕掛けになっている。

 

 しかも、その義父たるや娘が赤ん坊のとき家出し行方知れずだという。はなわも会ったことがない。そのような家庭の実情を踏まえた歌でもある。

 

 「冷し中華なのにフーフーしながら食べます……」と妻の天然ボケぶりを語るユーモア感覚、まだ見ぬ義父に「いつか孫を見に来ませんか」と呼び掛ける真摯な想い、いずれも心に残る。

 

 作家が自らの体験を隠すことなく書き連ねるのが私小説なら、「お義父さん」のような作り手兼歌い手が自身の身辺実話を素材にした歌は、なんと呼んだらいいのか。差し詰め“私バラード”か。

 

 登場人物は本人、妻、子ども、義父、義母、義姉と実在人物ばかりの上、彼等の繰り広げる物語の人間臭いこと。作家が書いたらかなりの長篇になる人間ドラマが、凝縮され詰め込まれている。この「お義父さん」は、まぎれもなく私バラードの傑作である。

 

フォークソング風の淡々とした曲調、これがまた、じんわり来るんですよ。

 

ところで、この曲を聴きながらふたつの先行作品を思い出した。さだまさし「関白宣言」、美輪明宏「ヨイトマケの唄」といずれも長目のバラードだ。前者にはさだの本音?が見え隠れするし、後者には美輪の母親の姿が投影されている。私バラードに分類しても差し障りないと思う。「お義父さん」が先行2作の同類としてスタンダード・ナンバー化する可能性だって大いにある。

 

 「お義父さん」にはその後も賑やかな話題にこと欠かない。一家と父親の対面も現実のものとなったようだ。更には英語版、中国語版の企画もあるらしい。すでに両国語の歌詞が出来上がり、歌手の選定も着々と聞いている。

 

 K DASHにはかつて「千の風になって」(作詞作曲新井満、歌秋川雅史)という物語性の強い曲を当てた実績がある。そのときのノウハウの蓄積もあるだろう。今回も是非とも大ヒットを!

 

(オリジナル コンフィデンス  2017/6/26号 コラムBIRD’S EYEより転載)

 

思わず笑みがこぼれるコミック・ソングの傑作です。