ことしのゴールデンウィークは、ミシェル・ルグランの新譜2枚(ソニー・ミュージックエンタテインメント)のお蔭で満ち足りた日々を送ることが出来た。

 

 そのうちの1枚『ミシェル・ルグラン:ピアノ協奏曲、チェロ協奏曲』には、表題そのままルグラン作曲のノンコマーシャル曲2曲が収録されている。共演はミッコ・フランク指揮のフランス放送フィルハーモニー管弦楽団、チェロのアンリ・ドマルケット。ピアノは本人自身。

 

 ことし2月24日、ルグランは85歳の誕生日を迎えたというが、ピアノ協奏曲で繰り広げられる超越技巧には老いのオの字もない。作曲家ルグランは、ピアニスト、ルグランの力量にいささかの衰えもないことをしかと承知しているからこそ、このような大曲にして難曲のコンチェルトを書き下ろしたのだろう。

 

 その力強く、粒立った美しさにあふれた演奏には、息を呑むしかない。

 

 チェロ協奏曲の第4楽章に当たる部分は、「ソナタ1‐2‐3(アタッカ)」という名称がつけられ、チェロのドマルケットとピアノのルグランの競演が聞きどころになっている。協奏曲にソナタを持ち込むという大胆極まる遊び心に思わず頬がゆるんでしまう。

 

 遊び心と言えば、ピアノ協奏曲のほうも第1楽章(アタッカ)からして心弾む軽快感にあふれ、遊び心そのものだ。

 

 この音楽家の経歴がクラシック音楽からスタートしたことは、「ミシェル・ルグラン自伝」(高橋明子訳、濱田高志監修、アルテスパブリッシング刊)にくわしい。10代のときすでに厳しい基礎教育を受けている。今回の協奏曲2曲の作曲・演奏は、本人にとって原点回帰以外のなにものでもなかったろう。

 

 残りのもう1枚『ミシェル・ルグラン・アンド・ベスト・フレンズ』は、ルグラン自選による〝歌のアルバム〟である。もちろん13曲すべてルグラン作品だけれど、どの曲にもオリジナルとは異る歌い手が起用されている。いや1曲だけ例外がある。ルグランが自分のために書いた「君が帰って来たら」だけは、以前同様、今回も本人が歌っている。

 

 13曲中、映画『ロシュフォールの恋人たち』の主題歌が「双子姉妹の歌」「マクサンスの歌」「町から町へ」と3曲入っている。それだけこの映画へのルグランの思い入れが深いということだろう。

 

 どの歌も歌詞のフランス語が音楽と美しく響き合う。言葉の響きも音楽の一部と言ってもいいかもしれない。

 こちらのアルバムでも作曲家自身のめりはりの効いた伴奏が、しばしば歌を際立たせずにおかない。2枚を通じ改めてピアニスト、ルグランに瞠目した。

 

  (オリジナル コンフィデンス  2017/5/22号 コラムBIRD’S EYEより転載)

 

         ルグランの新譜、2枚とも聴き応え十分です。