名倉ジャズ・ダンスの魅力は ”波状攻撃”にある
総勢100名近い群舞に圧倒される。
ジャズ演奏は目に見えない。けれど肉体とその動きを借りてジャズ・ダンスに変身すれば、ちゃんと目に見える。時には荒々しく時にはこまやかなリズムの息遣いまでもが見えて来る……。
名倉加代子ジャズダンススタジオ公演『Can’t Stop Dancin’ 2016』の躍動する舞台を見ながら、ふとそんなことを思った(11月3~6日、新国立劇場中劇場、3日所見)。ジャズ・ダンスの本質は、見えないものを見えるものに転化させるところにある、と悟ったということだ。
名ダンサー、名振付家名倉加代子率いるこのスタジオの公演は常に技と力に満ちている。豪胆で繊細、プラス品位がある。しかも回ごとにレベルが向上する。だから私は、かならず見に行く。
21回続いた公演の根拠地青山劇場が閉鎖されたので、その先行きが案じられていたが、新国立という場を得て続演出来たのは大変めでたい。
名倉スタジオの公演は女性ダンサーだけでも90名を数える。しかも60代から20代と年齢層が幅広い。年配組はさすがの技量を見せる。しかも若々しいのがうれしい。中堅の安定感、若手のエネルギーにも目を見張らされた。
ゲストの男性陣には、バレエ系の堀内充、高岸直樹、ジャズ系の須山邦明、裕幸二ら腕っこきを8名をそろえた。当然ジャズだけでなくモダン・バレエ風の演目も登場する。この演目の多彩さこそ名倉スタジオ公演の魅力のひとつだ。
ジャズ・ピアニスト佐山雅弘の生演奏とダンサーたちの共演(競演?)が最高に楽しかった。「Piano Man~誰かが誰かを愛してる」から「As Time Goes By」に至る5景である。どこまで決まりごとでどこから即興なのか、演奏もダンスもはっきりわからない。音楽も踊りも多分にアドリブが含まれるのではないか。生演奏が踊り手たちの表情、ステップをイキイキと輝かせているのが手にとるように伝わって来る。とりわけ名倉、高岸のデュエットが洗練の極みだった。
名倉ジャズ・ダンスの最大の特色は、ダンサーたちが何組にも分かれ、次々と現われては引っ込み、引っ込んでは現われる波状攻撃のような群舞にある。今回もオープニングやフィナーレでこの特色を十二分に発揮してみせた。振付・演出面での名倉マジックの腕の見せどころでもある。
名倉さんの経歴は古い。1960年代、日本テレビの名物プロデューサー井原高忠さんの『光子の窓』『スタジオ№1』などで軽やかにステップを踏んでいた姿が、未だ目に焼きついている。いっときのブームが去ったように見えるジャズ・ダンス界だけに名倉さんの存在はとても貴重だ。
(オリジナル コンフィデンス 2016 11/28号 コラムBIRD’S EYEより転載)
リーダー名倉加代子のソロは優雅な流線を描き出す。相手役は高岸直樹。
(photo:鈴木紳司)