アルバム第1曲「アット・ザ・バレエ」からバーブラの圧倒的な歌唱、贅沢な共演メンバー、巧妙、精緻な構成に魅せられる。耳で歌と科白を聴いているだけなのに、舞台の(あるいは映画の)一場面が目の前に立ち現われるかのよう。一分の隙もないパフォーマンス、しかし息詰まるということなく楽しめる。

 

 今回で36枚目のスタジオ録音アルバムになるという『アンコール』(ソニー・ミュージックエンタテインメント)には、「ムーヴィー・パートナーズ・シング・ブロードウェイ」という副題が付いている。バーブラ・ストライサンドの気持を推し量るなら、「ハリウッドの仲間たちとブロードウェイの名曲を歌ってみたの」といった意味合いか。

 

 「アット・ザ・バレエ」では演出家ザックをブラッドリー・クーパー、オーディション仲間のビビ、マギーをそれぞれデイジー・リドリー、アン・ハサウェイが受け持っている。本人が歌い演じるのは薹(とう)の立ったダンサー、シーラである。

 

 シーラの設定は多分アラサーか。1942年生まれのバーブラ、当年とって74歳。本来ならとり組める役柄ではないが、バーブラは見事シーラになり切っている。超一流歌手でもあるが、超一流女優でもあることの証明である。

 

 メリッサ・マッカーシーとデュエットする「あなたに出来ることなら何でも」(『アニーよ銃をとれ』より)が、これまた聴き応えがある。元唄はワイルド・ウエスト・ショウ(カウボーイの曲芸ショウ)で少女が超ヴェテランの男と速撃ち、曲撃ちを競う内容だが、ここではハリウッド女優同士の公私にわたる競い合いに書き替えてある。

 

 アメリカ・ショウ・ビジネスはおとなの社会だなあ、それにくらべてわが日本はと思わず微苦笑が浮ぶ。

 

 他の共演メンバーも豪華を極める。ヒュー・ジャックマン、アントニオ・バンデラス、ジェイミー・フォックスら。ただし曲はよく知られているものとは限らない。上演されることのなかった『スマイル』のなかの「エニー・モーメント・ナウ」(共演ジャックマン)とか。

 

 この曲の作曲者は先の「アット・ザ・バレエ」のマーヴィン・ハムリッシュである。マーヴィンは、彼女が64年、『ファニー・ガール』で初めてブロードウェイ・ミュージカルの主役を務めたとき、稽古ピアノだった。以来、ふたりは同志として歩んで来たという。2012年、この世を去ったハムリッシュに捧げたナンバーという意味合いも見え隠れする。

 

 今、ブロードウェイとハリウッドの間に架け橋を渡すという大仕事が出来るのは、ストライサンドしかいない。

 

(オリジナル コンフィデンス  2016 9/26号 コラムBIRDS EYEより転載)