アルバム第1曲目の「この広い野原いっぱい」からびっくり仰天した。森山良子のデビュー50周年を記念して50名の友人たちがレコーディングに参加しているのだ。加山雄三、谷村新司、さだまさし、由紀さおり、岩崎宏美、大竹しのぶ……。

 

 もともとこのデビュー曲の作詞は小薗江圭子、作曲森山だが、はるか遠い青春に思いを馳せる新しいプロローグの歌詞が森山によってつけ加えられている。

 

 森山良子はフォークソング・ブームの申し子である。この曲の素朴な味わいはそのことを裏書きしている。よく通る澄んだ声が似ていたせいか、〝日本のジョーン・バエズ〟と呼ばれたりした。

 

 森山のデビュー・シングル「この広い野原いっぱい」がリリースされたのは、1967年1月である。正式には来年1月、デビュー50周年を迎えるわけだが、前倒しでことしからさまざまな〝花火〟が打ち上げられるらしい。記念アルバム『Touch Me…』(ドリーミュージック)もそのひとつに数えられる。全14曲、いずれも贅を尽くし工夫を凝らした仕上がりを見せている。

 

 「聖者の行進」のスキャットや名ジャズメンの模写の、なんと巧みで堂に入っていることか。父森山久(名トランペット奏者)の血が脈打っている。ソプラノ歌手田村麻子と競い合う「花の二重唱」は、長年のクラシック音楽へのあこがれがほのめいていて微笑ましい。

 

 豪華ということでは「シェルブールの雨傘I Will Wait for You」がひときわ目立つ。サックス5、トランペット4、トロンボーン4を含む超ビッグバンドの伴奏に乗って、森山の歌も気持ちよさそうにスウィングしている。編曲は作曲者ミシェル・ルグラン自身。

 

 この記念アルバムのために自ら作詞作曲した「Sing My Life」は、多くの苦難を乗り越えて来た半生を振り返るだけではなく、これからもたくましく生きていくわよという新たな決意も読みとれる。ピアノ、ギター2、ベース、ハーモニカの素朴なバックと森山の力強い歌いぶりとがよく調和している。

 

 アルバム・プロデューサーには森山自身とともに、フジテレビの名物プロデューサー石田弘氏が名を連ねる。石田さんが手塩にかけて育て上げた長寿番組『ミュージックフェア』で、ダントツで出演回数が多いのは、森山良子だと聞いたことがある。彼以上に森山と相性がよく、彼女の多面的な才能を知り尽くしている人は、多分いないのではないか。このアルバムの完成度の高さは石田さん抜きにしてはあり得ない。

 

 縁の下の力持ちということでは、編曲、ピアノの武部聡志を忘れてはなるまい。

 

(オリジナル コンフィデンス  2016 4/25号 コラムBird's Eyeより転載)

 

 

        このアルバムに森山良子の50年のキャリアが凝縮している。