ブロードウェイ現役陣が顔をそろえる座組み

 

  『プリンス・オブ・ブロードウェイ』という題名を見て、物語の主人公は貴公子のようなブロードウェイの俳優なんだろうかと、早とちりする人もいるのではないか。

 

  しかし、この題名は、同じプリンスでもハロルド・プリンスという個人名に由来したものだ。1928年生まれ、当年とって87歳、愛称ハル。54年、『パジャマ・ゲーム』の製作に関わって以来、プロデューサー、演出家として超一級の作品を世に送り出して来た巨匠にして名匠、ハル・プリンスの総決算となる大舞台である。

 

 彼がプロデューサーを務めた『ウェスト・サイド物語』『屋根の上のヴァイオリン弾き』、演出家として腕を揮った『キャバレー』『フォーリーズ』『オペラ座の怪人』などから、名場面中の名場面がきびすを接して、しかも装いも新たに登場するらしい。目が眩むように華やかな場面もあれば胸に染みる哀しみに満ちた場面もあるにちがいない。

 

  もし『ウェスト・サイド物語』の激しいダンスのあと、『オペラ座の怪人』の甘く切ないアリアが響いて来たら、私たち観客は感情のスイッチをどう切り替えたらいいのか、今からとり越し苦労をしてしまう。

 

  配役にはブロードウェイの現役陣がずらり顔をそろえる。『レ・ミゼラブル』のジャン・ヴァルジャン役をついこの間まで演じていたラミン・カリムルー、『オン・ザ・タウン』でトニー賞主演男優賞候補になったトニー・ヤズベック、『オペラ座の怪人』クリスティーヌ役として評価の高い新星ケイリー・アン・ヴォーヒーズなど。

 

  ブロードウェイからの来日公演は、よくてアメリカ国内向けのドサ回り一座、悪くすると組合非加盟の俳優たちのみの座組みだったりするけれど、今回に限ってそんなことになるはずがない。

 

  ワールド・プレミア、すなわち世界初演が謳い文句なんですからね。

 

  例外的に、ことし5月まで宝塚歌劇団星組男役トップスターだった柚希礼音が出演する。宝塚からブロードウェイへ直行、しかも男役を捨てて女優としての独り立ちである。プリンス、共同演出のスーザン・ストローマンがどうカンパニーのなかに融け込ませるか?

 

  ハル・プリンスと日本のミュージカルを通した交流

 

  ところでハル・プリンスは、単なる思いつきで今回の『プリンス・オブ・ブロードウェイ』世界初演を東京、大阪でやろうと決断したわけではない。

 

 1976年、彼がブロードウェイで製作・演出した『太平洋序曲』という舞台がある。1853年、ペリー提督率いるアメリカ海軍軍艦4隻が、突然、浦賀に来航した歴史的事件に取材した異色のミュージカルである。更には70年代当時、日本が達成した経済的繁栄まで折り込むという大胆さが耳目を集めた。

 

  邦楽的音階・音色を意識したスティーヴン・ソンドハイムの音楽、歌舞伎の様式美・演技術をとり入れたプリンスの演出など、舞台表現上でも日本の伝統芸をとり入れた多くの冒険がなされ、今もって強烈な印象を残している。

 

  その後も彼は、『オペラ座の怪人』『蜘蛛女のキス』と自作の日本語版上演のたびに演出家として必ず来日している。この巨匠と日本とのミュージカルを通しての交流は、今、始まったことではないのだ。

 

 『プリンス・オブ・ブロードウェイ』は、ハルの〝太平洋ミュージカル序曲〟ではなく、〝本番・大勝負〟にほかならない。

 
     
    ({コモ・レ・バ?}Vol.25 Autumn 2015より転載)

 

 

                            <稽古場の様子>

 
(左から:ラミン・カリムルー、ケイリー・アン・ヴォーヒーズ、巨匠ハロルド・プリンス)

                 () 柚希礼音、(右) トニー・ヤズベック