あのフランク・シナトラの「マイ・ウェイ」を、シナトラ本人とわれらが加山雄三の二重唱で聴くことになろうとは!日本の音楽関係者の誰が思いついたのか知らないけれど、このすばらしいアイディアに盛大な拍手を贈りたい。

 

 生誕100周年記念、『シナトラ・グレイテスト・ヒッツ』(ユニバーサル・ミュージック)には1CD+ボーナスDVD、4CD+ボーナスCDの二種類があるが、どちらでもこのヴァーチャル・デュエットを楽しむことができる。

 

 ベースになっているのは、1968年1230日、ドン・コスタ編曲でシナトラが録音し、長年、私たちが親しんできたヴァージョンである。このときシナトラ53歳。

 

 一方、今回の加山が参加しての二重録音は、ことし4月2330日におこなわれた。加山は当年とって78歳、「マイ・ウェイ」をレコーディングしたときのシナトラを上回ること25歳という勘定になる。

 

 にもかかわらず、シナトラの歌いぶりは貫禄たっぷり、加山のそれには大先輩を慕うういういしさがあふれている。

 

 聴いていて、時々どっちがどっちだかわからなくなることがある。声質が似通っているせいか。ふたりとも力強いバリトンなのに一種の優しさが滲み出る。これぞ男の色気と言ってもいい。

 

 御大シナトラと四つに組むというのは、加山にとっては並大抵のプレッシャーではなかったろう。それを乗り越えられたのは相性のよさという前提があったからだと思う。デュエットの随所で絶妙な息の合い方が感じられる。それは、あうんの呼吸以外のなにものでもない。

 

 私の手もとに旧東芝EMIからリリースされた一枚のLPがある。表題も歌手名も英語で『FOR THE GOOD TIMES KAYAMA YUZOH』。「アンド・アイ・ラヴ・ユー・ソー」「スターダスト」などスタンダード曲全12曲、すべて英語で歌われている。ラストはなんと「マイ・ウェイ」である。その堂々たる歌いぶりは、シナトラ、ペリー・コモらアメリカ・ポピュラー界の王道を往く歌手たちの系譜に連なるものと言うことができる。加山にこういう下地なくして、一朝一夕に今回のような大胆な試みが成功するわけがない。

 

 DVD『加山雄三ライブ・イン日本武道館』(ドリーミュージック)を見て改めて気づいたのだが、加山は、アンコール前の全プログラムを「マイ・ウェイ」で締めている。加山のこの曲への熱い思いは、このことからもじゅうぶんに想像がつく。

 

 シナトラとのデュエットが実現したことで加山の「マイ・ウェイ」歴はある頂点を極めたのかもしれないが、これからも歌い続けていって欲しい。年齢と表現がこれほど連動する曲はほかにないのだから。

  

(オリジナル コンフィデンス  2015 7/27号 コラムBIRDS EYEより転載)


このシナトラ・アルバム(左)でシナトラと加山の「マイ・ウエイ」二重唱が楽しめます。加山のソロをお聞きになりたい向きは、ライヴDVDでどうぞ。