ハリウッド・ミュージカル映画の再現に胸がわくわくする

 

トップ・ハット。シルク・ハットと呼ばれることもある。男性の最上位の礼服、燕尾服に光沢のあるトップ・ハットは欠かせない。更に小脇にステッキを抱えれば紳士としてサマになること、この上なし。

 

来日するロンドン・ウエストエンド発のミュージカル『TOP HAT(トップハット)』は、同名のアメリカ映画をもとネタにしている。この映画を見ずしてハリウッド・ミュージカル史を語る資格はない。製作は1935年、日本公開は翌36年1月と大昔だが、もちろん今、DVDで見ることができる。

 

なかでも大詰めならぬ中詰めの場面、男性ダンサーたちが大挙して登場する「Top Hat, White Tie and Tails」に目が釘づけになる。一糸乱れぬ群舞もさることながら、そこから立ち上る優美さがこの上ない。つま先の動きにもご注目を。

 

これが生の舞台で再現されるのかと想像するだけで、久しぶりに胸がわくわくしてきた。

 

 映画で主役を張るのは希に見る名コンビ、フレッド・アステアとジンジャー・ロジャースである。ハリウッドきっての知性派女優キャサリン・ヘップバーンが、少しばかり辛辣だけれどなかなかの名言を残している。

 

「アステアはロジャースにクラス(気品)を、ロジャースはアステアにセックス(色香)をもたらした」

今回の来日公演では、ウエストエンドの製作陣がいかに往年のハリウッド・ミュージカル映画の雰囲気を再現してくれているか、大いに楽しみだが、もうひとつ、21世紀のミュージカル俳優たちがどこまでアステア、ロジャースの伝統を受け継いでいるか、そのあたりにも目を凝らしたい。

 

物語を色鮮やかに仕立てる名曲の数々

 

とまあ、そんなわけで、ミュージカル『TOP HAT』と来れば、往年の名作映画であり、アステア、ロジャースのふたりである。しかし、若き世代のミュージカル・ファンにはそんな昔話を持ち出したってチンプンカンプンだろう。その落差、隔たりを気に掛けていたら、いや心配ご無用、宝塚歌劇団宙組がそっくりそのままやっているんですから、知名度じゅうぶんと言ってくれた人がいる。こっちのCD、DVDもリリースされているそうだ。

 

そもそも燕尾服、白い蝶タイ、シルク・ハットが世界でいちばん似合うのは宝塚の男役たちでした。その肝心な点をうっかり忘れていた。

 

また、去年来演したアダム・クーパー主演の『SINGININ THE RAIN 雨に唄えば』で、ダンス・ミュージカルの高揚感に味をしめた人たちが沢山いることだろう。その手の観客にもうってつけだ。

 

『TOP HAT』は、ロンドンとヴェニスを背景に、とんだ人違いがもとで男女の糸がこんがらかりにこんがらかるラヴ・ロマンスである。このどこにもありそうな物語をひときわ色鮮やかなものに仕立て上げているのは、アーヴィング・バーリン(「ホワイト・クリスマス」)の音楽以外のなにものでもない。

 

先の「Top Hat~」のほか「No Strings」「Isnt This a Lovely Day?」「Cheek to Cheek」「The Piccolino」と名曲の誉れ高い曲がずらりと並ぶ。作詞も作曲者自身。

 

特に知名度の高いのは「Cheek to Cheek」だが、皆さん、その歌い出しをご存知ですか。

 

天国にいる気分/ハートどきどき、口がきけない……。この歌詞って『TOP HAT』への私たちの期待感を先取りしているような気がするのだけれど……。

     
{コモ・レ・バ?}Vol.4 Summer 2015より転載)