ことしのアカデミー賞作品賞を授けられた『バードマン(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』は、やや奇矯というか一風変わった作柄の作品である。大半、リアリズムの描写が続くのだが、時折、ファンタスティシズムが入り込んでくる。アメコミのキャラクター、バードマン役の俳優リーガン(マイケル・キートン)の背中に、突然、そのバードマンが姿を現わすというような。そこが滅法面白い。

 

 ハリウッドで落ち目になったスターがブロードウェイで再起を図る筋書きなので、当然、ブロードウェイの表と裏が活写されていて、そこが私にはたまらなかった。

 

長篇ドキュメンタリー賞の『Citizen Four』は未見だが、NSA(アメリカ国家安全保障局)の個人情報収集を告発したエドワード・スノーデンを主軸に据えた作品だと聞いている。

 

ロサンゼルス在住の作家の米谷ふみ子さんが、東京新聞でこの受賞をとり上げ、ハリウッドがマッカーシズムと赤狩りを忘れていないことの現われだと言っていたが、なるほど現地に住む作家のひとことは鋭く重みがある。アカデミー賞はハリウッドがその良心を暗に示す場でもあるのだろう。

 

WOWOWで会場からの実況中継を見ていて、ひときわ心が華やいだのは、映画『サウンド・オブ・ミュージック』公開50周年記念の場面である。振り返ればロバート・ワイズ監督、ジュリー・アンドリュース主演のこの映画が全米で封切られたのは、1965年3月のことだった。

 

美しい数々の楽曲に彩られたこのミュージカル映画に通底するのは、反ナチズムである。監督、脚本家、俳優すべての職種にユダヤ系の多いハリウッドが、この作品の公開50周年にスポットを当てたくなる気持は、わかり過ぎるくらいわかる。ただあの映画が優れていたから、超ヒットとなったからだけではないだろう。

 

歴史を忘れないということでは、『Citizen Four』と相通じるものがあると思う。

 

それにしてもレディー・ガガのメドレーは類のない見事さで、ただ聴き惚れるばかりだった。「サウンド・オブ・ミュージック」「私のお気に入り」「エーデルワイス」「すべての山に登れ」と歌い継いでいくのだが、歌もジェスチャアもドレスも、日ごろのなにものも恐れぬガガ流はどこへやら。なんとも正攻法なとり組みようだった。

 

草書ではなく楷書なのだが、だからといって堅苦しさはみじんもない。アルバム『トニー・ベネット&レディー・ガガ/チーク・トゥ・トゥ』のジャズに次いで、今回はミュージカル・ナンバーと来たか。その秘めたる実力、恐るべし。

 

ガガが歌い終えると、なんとジュリー・アンドリュースの登場である。しっかりハグするふたり。半世紀ひとっ飛びだった。

 

(オリジナル コンフィデンス  2015 3/23号 コラムBIRDS EYEより転載)


         さすが二の腕裏の入れ墨はガガ流です。


    ガガとアンドリュースの抱き合う姿は感動的だった。