もしエルヴィスが存命だったら、ことしでちょうど80歳だそうだ。1935年1月8日生まれだから、なるほどそういう勘定になる。湯川れい子さんが週刊新潮1月1・8日号に寄稿した“生誕80周年!今も色褪せない「エルヴィス・プレスリー」”で、初めてその事実に気づかされた。

 

 エルヴィスは、50年代、いわゆるロックン・ロール革命を起こした当の人物である。湯川さんは、ジョン・レノンの「もしエルヴィスが存在しなかったら、ビートルズも無かった」という言葉を引用し、彼の世界ポップス史上における影響力の大きさを強調して已まない。

 

 「日本の今のポップス、桑田佳祐さんも嵐もAKB48も、その音楽的ルーツを遡って行くと、すべてエルヴィス・プレスリーという人に行き着くのです」

とまで明言している。

 

 その一方、日本では「ビートルズほどのインパクトや影響を与えることなく、その名前とイメージが消えて行こうとしています」と心配を隠そうとしない。この深刻な懸念が彼女をして4頁もの特別読物を書かせたのだろう。

 

 世界中で10億枚以上のレコード売り上げを記録し、“史上最も成功したソロ・アーティスト”と謳われながら、日本には「エルヴィスって誰?」という若者が多いそうだ。38年前の1977年にこの世を去っているのだから、仕方ないかもしれないが、若い世代の洋楽離れも一因と思われる。

 

湯川さんは、彼がロックン・ロール旋風を巻き起こした50年代当時、アメリカの音楽情報が日本にじゅうぶん入ってこなかったことも、ネックになったと見ている。

 

 そう言えば私自身、長い間、エルヴィスにご無沙汰だったことにはたと気がついた。幸い私のレコード棚にはエルヴィス関連のレーザーディスクが3枚ある。『‘68カムバック・スペシャル』『アロハ・フロム・ハワイ』『エルヴィス・イン・ハリウッド』(いずれも旧BMGビクター)である。ことしのお正月はプレスリー三昧と決め込んで見始めたところ、予想を遥かに超え、その圧倒的な歌唱力と揺ぎない存在感に心打ち震えずにはいられなかった。

 

 とりわけ、1枚目の「ギター・マン」を素材にしたドラマ仕立てのやや長目の場面は、彼の持てるすべての力、すなわち歌唱力、ダンス力、演技力を出し切った力作だと断言できる。2枚目では「サムシング」「フィーヴァー」などいくつものカヴァー曲を聴くことができるが、その解釈力の深さ、表現力の豊かさには舌を巻く。

 

 3枚目では歌手より俳優としての成功を夢見ていた一面が明らかにされ、興味深い。

 

 もし彼が80歳にして現役だったら、円熟や老練はあったかどうかなど、想像を逞しくしたくなる事柄ばかりである。

 

(オリジナル コンフィデンス  2015 1/26号 コラムBIRDS EYEより転載)



   手元にあったプレスリーのLP3枚です。