『ONCEダブリンの街角で』(‘07、「Falling Slowly」でアカデミー賞j主題歌賞)の監督ジョン・カーニーの新作である。前回、低予算で作ってヒットしたので、今回の『はじまりのうた』(原題『Begin Again』)では結構お金を使わせてもらっている。
なにしろ主演女優がキーラ・ナイトレイ(『プライドと偏見』『つぐない』)なのですからね。
ただし主役の男女が私生活面でちょっと“わけあり”な点、物語に音楽がたっぷりからんでいる点など前作との共通点がいくつも見られる。
ナイトレイ演じるグレタは夫デイヴ(マルーン5のアダム・レヴィーン)の浮気に手を焼いている。その彼女の音楽的才能に目をつけたのが、尾羽打ち枯らしたプロデューサーのダン(マーク・ラファロ)だった。
ダンとレコード会社社長とのやりとりなど業界の現状がストレートに反映していて、思わずにやりとさせられる。
スタジオ料金にもこと欠くダンとグレタは、ニューヨーク街頭を転々としながらライヴ・レコーディングを試みる。そう、この物語の背景は今の生きのいいニューヨークなんです。
『ONCEダブリンの街角で』のラストでは、ヒロインが新しい飛躍を目指しダブリンからニューヨークへ飛び立つが、その筋立てと本作とはまったく関係ない。念のため。
もちろんナイトレイが歌を披露するのは初めてのことだ。歌手の役を演じているという風情がミジンもない。もともと歌手みたい。歌に説得力があって、はまり役である。
カーニー監督の前作『ONCEダブリンの街角』は、皆さんご存知の通り、ブロードウェイ・ミュージカルになった。2012年度トニー賞最優秀ミュージカル作品賞を受賞している。音楽を含め、映画の特色だった素朴な手作り感が舞台でもうまく生かされたからだ。
それでは『はじまりのうた』にもブロードウェイ関係者は興味を示すだろうか。私の推測はノー。肝心の楽曲がもうひとつ魅力に欠ける上、主要人物のキャラクター、物語の設定がありきたり過ぎるのでは!
2月7日よりシネクイント、新宿ピカデリー他でロードショウ