やなせさんと音楽とのつながりは、とってもひょんなところからやってきた。昭和三十五年(1960)のことである。

 

「ある日、それほど親しくもなかった永六輔がやってきて、こんどミュージカルをやることになったんだけれども、その装置をやれと言うんだな。作・演出が永ちゃん。もちろん舞台の仕事は初体験だった。ところが、みんなと共同作業をやっているうちに、病みつきにしまってね」

 

 この作品こそ国産ミュージカルの嚆矢(こうし)、『見上げてごらん夜の星を』である。当時の人気コーラス、伊藤素道とリリオ・リズムエアーズ中心のキャストで初演されたが、のちに坂本九の代表作となった。

 

 やなせさんの童画風の美術は、夢と希望に生きる夜学生たちの姿を描いたこの作品にぴったりで、大いに評判を呼んだものだった。

 

 今や小学校の教科書にも載っている「手のひらを太陽に」(作詞・やなせたかし、作曲・いずみたく)もこのとき知り合った二人による副産物である。

 

 やなせさんの超ロング・ベスト・セラー『アンパンマン』も同じく、いずみとのコンビでミュージカルとなり、シリーズ化されている。うらやむべき相性のよさではないか。

 

        (1991年6月9日、産經新聞)

 

(追記)

 やなせたかしさんは、2013年10月13日、94歳の天寿を全うされた。しかし氏の生んだ「アンパンマン」は永遠の生命を保ち続けるにちがいない。いずみたくに紹介され、なんどもお会いしたことがあるが、やさしい笑顔の絶えることのない人だった。温厚な人柄が今更のように懐かしい。