直球、ど真ん中のエンターテインメント!観客の心をほぐし、高ぶらせ、しあわせたっぷりの気持ちを味合わせてくれる。ミュージカル『SINGIN’IN THE RAIN~雨に唄えば~』を見てユーウツになる人はまずいないでしょう。
ジーン・ケリーのダンスに胸躍らせた往年の洋画ファンから『マシュー・ボーンの白鳥の湖』でアダム・クーパーにはまったバレエ・ファンまで、観客層の幅はかなり広いと見た。もちろん、その中核部を担うのは熱烈なミュージカル・ファンだ。
まず物語が、サイレントからトーキーに移り替わる時期のハリウッド裏話と、ミュージカルの王道中の王道である。ロマンスもたっぷり。二枚目の大スターが女優志願の小娘を追い回わすという設定はどこかにあったなぁと思い巡らせ、はたとアカデミー賞受賞作、映画『アーティスト』(2011)を思い出した。
いや、そうじゃなかった。同じ時代のハリウッドを描いていても、このミュージカルが下敷にしたMGM映画『雨に唄えば』(1952)のほうがずっとずっと先輩格でした。
この公演の目玉は、期待通り主役のハリウッド・スターを演じるアダム・クーパーを措いてほかにいない。これぞとばかり舞台全面に降りそそぐ雨の中、ずぶ濡れで踊るクーパーのステップ、身のこなしの軽やかなこと、華やかなこと。
このミュージカルで使われている楽曲は新たに書き下ろされたものではない。ほとんどがかなり古い既成曲なのに、どれもがぴたり筋と場面にはまっている。メインの「雨に唄えば」だけではなく「笑わせろ」「君は幸運の星」「グッド・モーニング」とすべてがいちど聴いただけで耳に残る。
ダンス場面では全員総出でこれでもかこれでもかと踊りまくる「ブロードウェイ・バレエ」が豪華絢爛、大レヴュウの楽しさにあふれ、目の保養になった。
これまで私は、トミー・スティール主演のウエストエンド版(1983)来日公演、奇才トワイラ・サープ振付・演出のブロードウェイ版(1985)など、いくつかの『SINGIN’IN THE RAIN』を見て来たが、今回の英国版がいちばんエンジョイ出来た。振付:ジョナサン・チャーチ、演出:アンドリュー・ライトらのプロフェッショナリズムが、観客を楽しませるという一点に集中しているからだ。
東京にいながらにして、よく練り上げられたプロダクションを、オリジナル・キャストの主演俳優で見られるなんて、始終起こり得ることではない。
今、私はうっかり?主演俳優と書いてしまったが、アダム・クーパーは、最早バレエ・ダンサーではない。今や立派なミュージカル俳優だ。歌もソツなくこなしていたし。彼の見事な変身ぶりに拍手を贈りたい。
(11月24日まで、東急シアターオーブ。2日所見)
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ずぶ濡れのアダム・クーパーです。
大レヴュウの光景がまた楽しい。