クリント・イーストウッド監督の新作『ジャージー・ボーイズ』を二度も見てしまった。最低もう一回は見るだろう。それほど興味尽きない。エンターテインメント・ビジネスの裏表を描いて余すところなしだからだ。

 

 『ジャージー・ボーイズ』は、60~70年代、超人気ヴォーカル・グループだったザ・フォー・シーズンズの伝記ミュージカルである。彼等がニュージャージー州出身というところから、このような題名がつけられた。メンバーのなかには地元で手に負えない不良だった者もいた。

 

 人気が出てのち、彼等が女の子を連れ込みドンチャン騒ぎをするホテルの部屋のドアが、ちらりと映る。名札にフランク・シナトラ・スウィートとあった。同じ州出身の大先輩シナトラにあやかろうという魂胆が透けて見え、思わずにやりとしてしまう。

 

 自分たちの楽曲を売り込むために、音楽出版社がひしめき合うかのブリル・ビル(ニューヨーク市ブロードウェイ1619番地)を訪れる場面が出て来る。彼等は片っ端から出版社の扉を叩く。ある出版社では「なんだ、黒人ではなかったのか?」と言われ、ぴしゃりとドアを閉められてしまう。

 

 あのパブリッシャーは、事前に送られて来ていたデモテープからブラック・グループを想定したのだろうか。あの時代、一般的にドゥーワップへの期待が高かったということなのか。

 

 この映画を見て改めて思うのは、ザ・フォー・シーズンズのヒット曲の多さである。「シェリー(Sherry)」「恋はヤセがまん(Big Girl Don’t Cry)」「君の瞳に恋してる(Can’t Take My Eyes Off You)」と挙げ出したら切りがない。

 

 あの甘さはちょっと苦手という人も結構いるだろう。逆にそれがたまらないという人もいるはずだ。私は、ポップスの王道を行くその甘美さと更にプラスされる感傷性が決して嫌いな口ではない。

 

 この映画は、2005年以来ブロードウェイで、08年以来ウエストエンドでロングラン中の同名のミュージカルを原作としている。しかし、イーストウッドはミュージカル風な演出をまったくしていない(ニュージャージーの大通りで出演者全員が歌い踊るエンド・クレジットくらい)。

 

 ブロードウェイ・ミュージカルを下敷にしていても、もとの舞台を連想させないところが『シカゴ』とも『ナイン』とも異る。リアリズムに徹したこの方法なら、ミュージカル嫌いも拒否しないのではないか。

 

 四人組と怖い筋や悪徳金貸しなどとの危ない関係も、それこそリアルに描き出されていて興味をそそられる。

 

 サウンドトラック、ブロードウェイ・キャスト、旧譜の各版から厳選された楽曲が並ぶアルバム「JERSEY BOYS」(RHINO)がリリースされている。


(附記)
『ジャージー・ボーイズ』と言えば「キネマ旬報」10月上旬号の特集が読み応えがある。とくに小林信彦、芝山幹郎両氏の対談が、作品の細部にまで及び興味は尽きない。もちろん御両人とも大絶賛です。

 (オリジナル コンフィデンス  2014/10/27号コラムBIRDS EYEより転載)

 

 

    ジャージー・ボーイズ  オリジナル・サウンドトラック

     (RHINO、日本盤は ワーナーミュージックより)




JERSEY BOYS Original Braodway Cast Recording

          (RHINO、輸入盤)