アラン・パーカー監督が、次々に発表する作品は、社会問題に鋭く切り込んだ大作が多い。そのひとつ『愛と哀しみの旅路』は、第二次世界大戦中のアメリカにおける日系人キャンプに取材した見ごたえある作品である。
この映画を見た人は、冒頭から日本の流行歌『雨に咲く花』(作詞:高橋掬太郎、作曲:池田不二男)が流れるのにびっくりするにちがいない。それも戦後の井上ひろしによるリバイバルではなく、昭和十年、関種子が歌ったオリジナルのほうだけに、タイムスリップ効果はきわめて大きい。
パーカー監督は、この作品の挿入歌をさがすにあたって、日本から六十曲ほど候補曲を送ってもらい、そのなかからこの曲ほか数曲を選んだ。
全曲、歌詞を英訳してもらい、それとにらめっこしながら繰り返し聴いたという。
この映画のヒロインは日系アメリカ人、リリーである。彼女がさまざまな別れと出会うたびに、『雨に咲く花』が流れ、感傷的な雰囲気を盛り上げる。日本の古い流行歌がこんなに外国映画のなかで生かされた例は、ほかにない。
監督の音楽センスのたまものである。
(1991年3月17日、産經新聞)
(追記)
アラン・パーカー監督は1944年生まれ。
主な監督作品に『ダウンタウン物語』『ミッドナイト・エクスプレス』『エビータ』などがある。Sirの称号を持つ。