若大将の放つ閃光が、ステージ上を行き交い、そのオーラが館内いっぱいにあふれ返った。光輝く存在感は、まさにスターそのものだ。しかし一方、満面に微笑を絶やさず、足どりも軽やかで、スターらしくない面も失っていない。いくつになっても、その両面を持ち合わせているところが、変わらぬ加山雄三の持ち味だろう。

 

 加山は技巧を弄して歌わない。個性で歌う。人柄が聴く者の心に染み入るように歌う。そのリラックスした歌いぶりは、彼が敬愛してやまないペリー・コモに通じるものがある(褒め過ぎかな)。

 

 3時間半、アンコール曲3曲を含め全45曲。伸びやかな声で歌い継いでいく。弾厚作名の自作曲(英語の歌詞まで手掛けたものもある)から、ビートルズ、ベンチャーズなど影響を受けた海外アーチストの曲まで、そのレパートリーの幅の広いこと!

 

 お喋りがまた気どらず、下世話になり過ぎず、実に楽しい。妻がヘソ繰りでピアノを買ってくれた話、ペリー・コモとの釣りの話などもまったく嫌みにならない。

 

 予定のプログラムの最終曲「マイ・ウェイ」には、思わず込み上げて来るものがあった。もちろん加山は真正面から堂々とこの曲にとり込んだ。まさか77歳になった加山でこの歌を聴こうとは!デビュウ当時から彼を知る身としては、向うの人生とこちらの人生を重ね合わさずにいられなかった。

 

 ハイライトはすぐそのあとにやって来た。アンコール第1曲目、待ちに待った「君といつまでも」が歌われ、あの有名な科白に差しかかろうとしたまさにその瞬間、急に伴奏がストップし、花束で顔を隠した得体の知れぬ男が、「船長、船長」と叫びながら舞台上手袖から飛び出して来たのだ。

 

 その男が桑田佳祐だとわかり、場内騒然となる。そのあと桑田が例の「しあわせだなあ」という科白(加山へのオマージュという内容に変えてだが)をつぶやくという趣向も、なかなか手が込んでいた。

 

 更には加山、桑田で「夜空の星」のデュエットという豪華なおまけまでついた。終演後の打ち上げパーティーで加山は、まったくの不意討ちだったとしきりに強調していたが、ほんとうにそうかなあ。すべてがあまりにも息が合い過ぎていたもの。

 

 とはいえ、この「夜空の星」が情感にあふれ熱唱だったこと、間違いない。

 

 45曲目、締めくくりの「Dreamer~夢に向かって いま~」(作詞:松井五郎、作曲:弾厚作)には、まず大海原を連想させるスケール感たっぷりの曲調に圧倒された。歌詞もあくまで前向きで若大将にふさわしい。歌にも魂がこもっていた。

 

 出来ることなら、加山と弾厚作のよきパートナーで“夜空の星”となった岩谷時子さんにも、このコンサート、是非見せたかった。ふとそう思ったのだが、すぐに考え直した。岩谷さんのことだ、客席のどこかで目を凝らし耳を澄ませていたにちがいないもの――。

    (8月23日、於日本武道館)


   まだ日の明るい午後4時からの開演でした。

   パーティーでの筆者とのツーショット。