絶対のお薦め品である。財布の底をはたいても一見の価値あり。この夏のさまざまな来日公演のなかでもし『War Horse ウォー・ホース~戦火の馬~』を見逃したら、あなたは人生で大きな損を抱えることになるだろう。

 

 日ごろから舞台芸術に関心を持っている人、今まで持ったことのない人ともにmustである。私がそう断言したくなるくらい、この舞台には創り手たちの、演じる者たちの熱き心が隅々まで染み渡っている。

 

 地上で白兵戦が繰り広げられた第一次世界大戦(191418)が背景の物語である。イギリスの小作農家の少年アルバートと分身のような愛馬ジョーイを主軸に、さまざまなエピソードが紡ぎ出される。

 

 私は、ロンドンでの初見の折、直感的にこの作品には世界と人間のすべての問題が内包されていると思ったものだった。

 

 小さな村でのささやかな日常、それを踏みにじる大きな戦争、その狭間で翻弄される個人の運命、そして馬をも含む生きとし生けるものすべての生と死ほかエトセトラ……。

 私たちは、第一次大戦で兵士同様多くの軍馬が失われたことに思いを致さなければなるまい。その数は各国を合わせると1000万頭に達するとも言われる。

 

 『ウォー・ホース』はストレート・プレイでもなければミュージカルでもない。フォーク・ミュージック的な音楽が要所々々で効果的に使われているが、既存のミュージカルの上演スタイルとはまったく異なる。

 

 馬は一種のパペットの手法で表現される。馬たちを操る俳優たちの技法には息を飲む。映像の使い方も効果を上げている。

 

 

              人と馬の一体感が見ものです。

あるとき、この作品を生み出した英国々立劇場ロイヤル・ナショナル・シアターの担当プロデューサーとお喋りしていた折、

 「ジュリー・テイモアは見に来ましたか」

 と尋ねてみた。

 

 テイモアはミュージカル『ライオンキング』で人形劇の手法を巧みにとり入れて、このミュージカルを成功に導いた最大の功労者だからだ。相手が答えて言うのには、

 「今のところ、彼女が来たという情報はありませんね」

 彼女にしてみれば自分の方法論が横取りされた?って嫉妬しているのかな。

 

 一方、このユニークな舞台を見て深く感動した映画界の巨匠がいる。即座に映画化を決めたスティーヴン・スピルバーグだ。ただし舞台の手法には即さず、あくまでもリアリズムで貫き通した。したがって馬はほんものの馬がそのまま登場する。さてその結果は?

 

 残念ながら彼ほどの巨匠が監督しても、舞台と変わらぬ生気は作り出し得ませんでした。

 

 イギリス演劇界をウォッチングしていて、つくづく羨ましいなあと思うのは、『ウォー・ホース』のような清新の気に満々た舞台を創出するのが国立劇場だということである。日本の新国立劇場も少し学んで欲しいなあ。

 

 原作は桂冠作家マイケル・モーパーゴによるイギリス児童文学の傑作で、日本語訳も出版されている(佐藤見果夢訳、評論社刊)。

  

(コモ・レ・バ? 2014 Summer Vol.20より転載)


 

http://warhorse.jp/