シャンソンが看板だったクミコが、昭和歌謡に挑戦した。どれもこれもソツがない。器用に歌っている。この器用さをうまいととるか、もの足りないととるか?

『美しい時代のうた~クミコ コロムビア カヴァーズ~』(日本コロムビア)である。

 なんとも欲張った選曲だ。全15曲中から頭の4曲をとり出してみても、「からたち日記」(オリジナル歌手・・・島倉千代子/昭和33年)、「夜のプラットホーム」(二葉あき子/昭和22年)、「赤い靴のタンゴ」(奈良光枝、昭和25年)、「東京キッド」(美空ひばり/昭和25年)と時代の刻印を背負ったヒット曲が並ぶ。

 たとえば「からたち日記」。なるほど島倉の歌は今聴くと独特の誇張が目立つ。クミコは島倉ほど臭くない。上品な味つけである。しかし、そこにクミコならではの主張があるとも思えない。

二葉の「夜のプラットホーム」には、この歌に描かれているその場の情景を想像させるだけの力強さがあった。クミコも精いっぱい盛り上げようと努めている。しかし、オリジナル曲の劇的緊張が不足している。

クミコのこの歌を聴いて、痛切な別れの歌だと感じる聴き手がどれだけいるか、いささか不安になる。

もしかすると、このアルバムのいちばんの楽しみ方は、こうしてオリジナルの歌唱と聴き比べることにあるのかもしれない。私のような世代にはそれはそれで楽しい作業だが・・・・・。

このアルバムはよくも悪くも総花的である。それは一に選曲から来ている。いや総花的な構成でもいいけれど、それを裏付ける思想性(ちょっと大げさかな)が欲しかった。端的に言えばプロデュースの方向性である。

つまりプロデューサー不在なんですよ。

クミコが、「愛の讃歌」など越路の歌で知られるシャンソンにとり組んだときには、越路とは別の視点、すなわちゴージャズ感ではなく庶民性が前提としてあった。

今回のアルバムにはそういう新しい視点がない。

クミコは今時珍しいおとなの歌手である。おとなのファンも沢山ついてる。それだけに、昭和歌謡を歌っても強烈な存在感を示して欲しかった。




美しい時代のうた~クミコ コロムビア カヴァーズ~
クミコ

1. からたち日記(島倉千代子/昭和33年) 
2. 夜のプラットホーム(二葉あき子/昭和22年)
3. 赤い靴のタンゴ(奈良光枝/昭和25年)
4. 東京キッド(美空ひばり/昭和25年)
5. ジャングル・ブギー(笠置シヅ子/昭和23年)
6. 雨のブルース(淡谷のり子/昭和13年)
7. 胸の振子(霧島 昇/昭和22年)
8. お使いは自転車に乗って(轟 夕起子/昭和18年)
9. 東京ラプソディ(藤山一郎/昭和11年)
10. 愛のさざなみ(島倉千代子/昭和43年)
11. 一本の鉛筆(美空ひばり/昭和49年)
12. 人形の家(弘田三枝子/昭和44年)
13. 四つのお願い(ちあきなおみ/昭和45年)
14. マイ・ラグジュアリー・ナイト(しばたはつみ/昭和52年)
15. 愛の讃歌(越路吹雪/昭和29年)

(オリジナル歌手/発売年)