先週木曜日(5月15日)、二子玉川の稽古場セーヌフルリ(花組芝居所有)に草笛光子を訪ねた折、公演を間近かに控えた『6週間のダンスレッスン』以外の話題もいろいろと飛び出した。落ち穂拾いじゃないけれど、記憶の薄れないうちにいくつか書き留めておく。

 

 顔を合わせたとたんブロードウェイの大ヴェテラン女優チタ・リヴェラの話で盛り上がった。チタと言えば、「ウエストサイド物語」初演時(1957)のアニタ、すなわちオリジナル・キャストのひとりである。

 

「最初に会ったのは彼女がブロードウェイで『シカゴ』(75)に出ていたときなの。日本でいっしょに『ジェリーズ・ガールズ』(85)をやろうなんて話もあっわね。でも彼女が怪我して駄目になってしまって...。」

 

「ジェリーズ・ガールズ」は、「ハロー・ドーリー!」「メイム」「ラ・カージュ・オー・フォールズ」などで知られるヒットメーカー、ジェリー・ハーマンの名曲で綴るレヴュウである。日本人キャストでいちど上演されたこともある。しかし、チタ&草笛版も見てみたい。この企画に挑戦するプロデューサー、誰かいないかなあ。半分、夢みたいな話だけれど。

 

 いや「ジェリーズ・ガールズ」でなくたっていい。むしろ草笛とリヴェラのふたりが芯になるダンス&ソング・ショウが作れないものか。

 

 チタ・リヴェラは、その他大勢のダンサーからA級のブロードウェイ女優にまでのし上がった人だ。彼女の演技をひと目見れば、ブロードウェイ・ミュージカルのなんたるかがすべてわかる。

 

 片や草笛は日本ミュージカル界のパイオニア的存在である。「ラマンチャの男」から「グレイ・ガーデンズ」までその出演作数知れず。

 

 それにこの日米ミュージカル女優は同い年でもあるんですよ。

 

 草笛は、松竹音楽舞踊学校に進む以前、横浜の名門校、神奈川県立横浜平沼高校(旧横浜第一高女)に学んでいる。才媛が集うことで有名なこの学校からもうひとり著名な女優が生まれている。一級上の岸恵子である。

 

「ふたりでお芝居する話もなくはなかったの。作品もいろいろさがしたわ。でもなかなかこれというのがないままに、そのうち立ち消えになってしまって」

 

 岸の舞台で私がとっさに思いつくのは、「情婦 検察側の証人」(1980)、ぐらいか。演出:市川昆。岸、市川という超有名映画人コンビの舞台進出ということで話題になった。

 岸恵子、草笛光子の芸歴と個性を生かすような脚本はないものか。誰か書こうという劇作家はいないものか。

 

 草笛光子はこれまで演目と役柄に恵まれて来た。なかでも『6週間のダンスレッスン』の未亡人役はぴったりの適役だ。パーティー・ダンスに目覚めた美貌の未亡人なんて役をほかの誰がやれるというのか。

 

 いや、でも、これだけで終わって欲しくない。チタ・リヴェラ、岸恵子とも同じ舞台を踏んでもらいたい。

 

 ほかにもやってもらいたい役がある。たとえば「桜の園」のラネーフスカヤ夫人はどうだろう。彼女だったら、典雅でちょっと滑稽さもあるロシア貴族の未亡人を見事に演じ切るにちがいない。

 

 

 

稽古場にて草笛と筆者。



「ウエストサイド物語」のチタ・リヴェラ。