人と音楽(42)  羽仁進さんと「チゴイネルワイゼン」 | 安倍寧オフィシャルブログ「好奇心をポケットに入れて」Powered by Ameba

人と音楽(42)  羽仁進さんと「チゴイネルワイゼン」

いよいよゴールデンウィーク突入ですね。皆さん方も、さまざまなプランを立てて束の間ながらホリデイを楽しまれることでしょう。

 当ブログも一休み、昔のコラム「人と音楽」(産經新聞連載)を転載して、しばしの場つなぎとしたいと思います。末尾の日付けは掲載日です。

 なお同コラムの以前に掲載した分についても、当ブログ左下Searchに「人と音楽」と入力すればお読みいただけます。

 では皆さん、よいホリデイを!

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 映画監督の羽仁進さんは、高名な歴史学者 羽仁五郎氏の長男である。音楽の思い出も親きょうだいと深いかかわりあいを持つ。

 それは、戦争が日一日と激しくなり出したころの軽井沢での出来事である。ある夏の日の夕暮れ、五郎氏が林の中の小道を散歩していると、ある家からバイオリンの調べが聞こえてきた。

 なにごとにつけても行動派の五郎氏は、その場で音の主を確かめるべくドアをたたくと、ポーランド人のバイオリニストでメンチェンスキーという人だった。

「なんとその日から親父は、その人をぼくと妹の協子と結子の先生にしてしまったんですよ。メンチェンスキーは、そのころ結構有名な音楽家だったんですが、戦争で演奏会もやれなくなっていたので、東京の家まで教えにきてくれました」

 問題はレッスンの成果である。羽仁さんだけ置いてきぼりを食い、妹たちはたちまちサラサーテの『チゴイネルワイゼン』をあげるほど上達してしまう。

 そしてさらに、協子さんは指揮、結子さんはチェロと本格的に音楽家の道を歩むことになる。

「この幼いときの後遺症でしょうか、こと音楽については女性にかなわないという劣等感があるんですよ」

(1991年2月3日、産經新聞)


(追記)
羽仁進さんは1928年生まれ。ドキュメンタリー・タッチの作風で知られる。代表作に「ブワナ・トシの歌」「初恋・地獄篇」などがある。