映画人としても一個人としてもしたたかな人生を歩んで来たウディ・アレン脚本・監督による、2013年の新作である。

 彼の78年間の全人生、そこで得た人生観がぎゅっと凝縮され、この一本に詰め込まれている。

 だから、今までの彼の作品と比べてやや重ったるい。それだけ彼の人生観照が深まったということで、私は、この微妙な変化を歓迎したいと思った。もちろんアレンの軽妙さは健在で、随所に隠し味的効果をもたらしている。

 ジャスミン(ケイト・ブランシェット)とジンジャー(サリー・ホーキンス)は、里親が同じというだけの血の繋がりのない姉妹同士である。性格、境遇すべて180度異なるという設定のもとに、物語はスタートする。

 ニューヨークのセレブのジャスミンは、億万長者の夫ハル(アレックス・ボールドウィン)の不祥事が発覚し、無一文となって、サンフランシスコでぎりぎりの生活を営むジンジャーのもとに転がり込む。

 ジャスミンとジンジャーというネーミングに、アレンの遊び心を感心しないではいられない。なんという対照の妙!

 題名の「ブルージャスミン」のブルーが、ヒロインの心境をさり気なく物語っている。境遇の大変化についていけず、酒とクスリに頼る彼女の気分が暗うつなのは当然だろう。

 作詞ローレンツ・ハート、作曲リチャード・ロジャースの名曲「ブルームーン」(1934)が、実にうまく作中にとり込まれている。ニューヨーク郊外の別荘地でのパーティーでジャスミンとハルが出会ったとき、バックに流れていたのがこの曲だった。それ以降、彼女の人生に寄り添う音楽となる。

 皮肉屋のハートの歌詞にはこんな箇所がある。
♪♪わたしの野望はね、モルガン大財閥みたいに大金持ちになることなの・・・・・。

 ジャスミンの夫ハルの悪事露見は、ジャスミンの嫉妬とも関係がある。彼女の没落は彼女自身の責任でもあるのだ。

 この映画に透けて見えるアレンの人生観は一筋縄ではない。虚飾の生活を賛美しているのでもないし、喧嘩の絶えない貧乏な日々のほうがましだと断定しているわけでもない。どちらかに傾いているとすれば、やや後者のほうへ、だろうか。

 つまり本音で生きる人生のほうへである。

 ジャスミンには新しい恋人が出来る。エリート官僚である。彼がジャスミンの嘘にころりと参ってしまう設定が少し安易な気がする。

 もうひとつ、ジンジャーのアパートが結構立派なのにも驚いた。パートの稼ぎであんな生活が送れるのか。

 以上二点にリアリティーの点で疑問を感じた。

 物語は現在のサンフランシスコと過去のニューヨークとの行ったり来たりで進行する。この行き来でアレンが練達の腕を発揮している。もちろん編集(アリサ・レプセルター)の巧みさも見逃せない。

 ケイト・ブランシェット好演!虚栄と零落の両方、そしてその落差を完璧に演じてみせる。アレンの演出でひと回わりもふた回わりも成長し、大女優に一歩近づいたかのようだ。




ブランシェットのファッションも見ものです。

Photograph by Jessica Miglio © 2013 Gravier Productions, Inc.

配給:ロングライド
5月10日(土)、新宿ピカデリー、Bunkamuraル・シネマ、シネスイッチ銀座ほか全国公開!
公式サイト:http://blue-jasmine.jp/