誰もが知っている名作映画「メリー・ポピンズ」の製作裏話である。ウォルト・ディズニー(トム・ハンクス)は、P.L.トラヴァース女史(エマ・トンプソン)の物語をどうしても映画化したいが、彼女のほうは頑として許可しない。

 演技派トンプソンの名演技は予想通りだったが、ハンクスもこのよく知られた人物を違和感なく演じている。このふたりの芝居だけでじゅうぶん大御馳走だ。

 トラヴァースのわがままぶりにディズニーも作詞作曲のシャーマン兄弟も振り回わされる。彼女は「ペンギンはアニメでは絶対いやよ」とか言いたい放題である。双方のぶつかり合いが途方もなくおかしい。

 ディズニーが、帰国してしまったトラヴァースをロンドンまで追い駆けてくどく場面、もうひとつ、映画が完成しても招待状が来ない女史が、ハリウッドの試写会に押し掛ける場面、この二景が私には興味深かった。微笑を誘い、かつホロッとさせるのだ。

「ウォルト・ディズニーの約束」(監督ジョン・リー・ハンコック)はただのショウ・ビジネス楽屋話ではない。トラヴァース女史の子どもの頃の親子関係に踏み込み、それが彼女の内面、更には創作にどう影響をあたえたかまで深く掘り下げている。

 物語の重層性が作品に幅と奥行きをもたらしていることは、言うまでもない。

 ウォルト・ディズニー自身が案内役を買って出て、トラヴァース女史とディズニーランドで遊ぶ場面がこれまた楽しい。ひょっとすると、この映画自体、ウォルトをガイドに仕立てたディズニー文化への招待ではないか?と錯覚してしまう。

 ディズニーはどこまでもしたたかだ。



名優ふたり、ハンクスとトンプソン

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「ウォルト・ディズニーの約束」 3月21日(金・祝)全国公開
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