スクリーン一杯に広がる雪と氷の世界にただただ目を見張る。アニメーションが到達した究極の映像美がここにある。私はかならずしもディズニー文化信奉者ではないが、この「アナと雪の女王」(原題「Frozen」)には、こうべを垂れるのみだ。

 お伽話、魔法の世界、妖精・動物キャラクター、愛の絶対性などディズニー映画の定番的要素がすべてを駆り出されているが、またかという気持ちにはならなかった。1時間48分、白銀の世界に幻惑されっ放しだったからだ。

 背景描写だけが優れているのではない。ダブル・ヒロイン(雪の女王エルサ、妹アナ)の人物像もあり得そうな王家の姉妹として生き生きと描き出されている。とくにアナの可愛いらしさ、ひたむきさは、女性観客の心をしっかり捉えることだろう。

 ヴィジュアルの美しさを更に引き立てているのが音楽である。今、ブロードウェイでもっとも旬の作詞・作曲家コンビ、ロバート・ロペス&クリステン・アンダーソン=ロペスが書いた8曲のミュージカル・ナンバーがどれもこれも粒ぞろいと来ている。

 まるでブロードウェイでのライブ・ミュージカル化が折り込み済みかのようだ。

 ストーリー・テリングも巧妙である。南国の王子、山男も登場するが、ロマンスだと思って筋を追い駆けていると肩透かしを食らう。実際、私も食らってしまったが、今ではこのラストにすこぶる納得がいっている。

 音楽の仕上がりがいいから、オリジナル・サウンド・トラック盤も聴き応えがある。目玉の楽曲「Let It Go~ありのままで」には聴く者を呑み込んでしまうようなスケール感がある。楽曲もいいが、イディナ・メンゼルの力強い歌唱力が断然光彩を放っている。

 イディナと言えば、先立ってのアカデミー賞授賞式でもこの歌を歌って客席総立ちの拍手を受けていた。その際、司会のジョン・トラヴォルタが、Idina MenzelをAdele Dazeemとかなんとか間違って紹介したのは失笑ものだったが、曲が主題歌賞に輝いてめでたし、めでたし。

「アナと雪の女王」の音楽についてもうひとこと。ミュージカル・ナンバー以外の背景音楽(クリストフ・ベック)が流麗であり、画面によく寄り添っている。サントラ盤で聴いていたら、おのずと目の前に氷の城や雪景色が浮かび上がって来た。

「アナと雪の女王 オリジナル・サウンドトラック」